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2023.05.08 08:30

「牧野式植物学」の偉業 「シン・マキノ伝」=第6部=最終回【72】田中純子(牧野記念庭園学芸員)

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自宅の書斎で顕微鏡を覗く牧野富太郎(昭和26年、個人蔵)

自宅の書斎で顕微鏡を覗く牧野富太郎(昭和26年、個人蔵)


 さて、いよいよ「シン・マキノ伝」の締めである。ここでは牧野の植物研究を改めて振り返り、総まとめとしたい。

 牧野富太郎が94年にわたる長き人生において成し遂げたこと、言い換えれば後世から高く評価されていることは、二つにまとめることができよう。一つは、植物分類学の成果である。その研究のより所となったのは40万枚と言われる、莫大な数の植物標本である。牧野自身が採集したものと各地から牧野に送られたものを含む。また、標本をもとにその植物を分類してつけた学名の数は1300以上とされる。そのうち種のレベルで今もそのまま使われる学名は約300である。この数は、日本人の中で一番多い。それだけ牧野が植物を識別する能力に卓越していたことを示す。牧野は量も質もすごいのである。

 以上の話は、国立科学博物館の研究員の田中伸幸氏に伺ったことである。田中氏は、東京都立大学牧野標本館に収蔵される牧野の標本について採集地や採集年月日などのデータを集め、牧野の日記などの資料と併せてまとめた「牧野富太郎植物標本行動録 明治大正篇」(2004年)および「同 昭和篇」(2005年)を、山本正江氏と共著で出版された。この「シン・マキノ伝」でもよく参考にした文献である。

 こうした研究成果を牧野は、学名と植物の特徴を記載した報告文にまとめて専門雑誌に次々と発表していった。また、「日本植物志図篇」「新撰日本植物図説」「大日本植物志」などの文と図からなる図説集にも成果が反映されている。牧野が描く植物図は、詳細で精密、かつ均整の取れた美しさが感じられる。花や実といった1年の生育の様子や普通には見過ごしかねない植物の細部が、まるで一つ一つ文章で説明するかのように図示されたものである。牧野式植物と言われるゆえんである。こうした優れた植物図の制作も牧野の研究を特徴づける見落とせない点である。入念に植物を観察し頭で一度理解したものを図解してあるので、それを見る側も馴染みやすく分かりやすいのである。

「大日本植物志」第1巻第3号(1906年)表紙(個人蔵)

「大日本植物志」第1巻第3号(1906年)表紙(個人蔵)

 牧野のもう一つの業績は、研究者のみならず一般の人に、植物(学)の面白さを知って植物採集を趣味として楽しむように実地での指導と講話に勤しみ、…

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