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2023.04.26 08:00

小社会 仙台屋桜

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 仙台屋桜。伝承では江戸時代、今の高知市の中須賀にあった商家「仙台屋」の庭に咲き誇った。

 明治のころ町外れの福井の農家が日曜市に出店し、玉水新地で飲んだ帰り、荷車を引いて仙台屋の桜を見上げ、見ほれて手折って、自宅に植えた。育った苗木は日曜市でまた売った。そんなのんきな伝承も残る。

 牧野富太郎博士は晩年、この桜の苗がほしいと弟子の武井近三郎さんに再三頼んでいる。「自宅に咲かせてみたい」と思いを示し、「まだ残っておれば高知名物の桜にすべし」と手紙に書いた。とうに仙台屋はなかったが、武井さんは福井近辺の木から小枝1千本を採取し、育成する。ちょうど70年前、1953年のことだ。

 当時の本紙を引こう。「武井氏が牧野さんから福井辺りに咲いている仙台屋桜を知らされたのは一昨年。毎年山内家へ献上したといういわれのある山桜の一種で、その独特の濃い派手な色彩は全国どこにもみられない珍しい花として、ぜひ土佐の名物に普及栽培せよと―」

 東京の牧野記念庭園に咲く仙台屋桜は、その年送った苗の長じたものだ。武井さんが建設に努めた牧野植物園をはじめ、いまや全国の名所にも咲き立つ。福井や旭辺りにひっそりと残る古木は、同じ直系の名桜。

 ある者は手折り、あるいは苗を買い、挿し木、接ぎ木で受け継がれた。フィルムを巻き戻せば、仙台屋の庭に戻る。博士、ちゃんとつながってますよ。

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