2023.03.21 08:36
高知県食肉センター「手競り」に別れ 黄色い鉛筆立て買い注文、最後は拍手 4月から新施設でリモコンに移行
競り人の「歌い」に合わせて鉛筆を上げる精肉業者ら(写真はいずれも高知市海老ノ丸)
午後0時半ごろ。精肉業者や焼き肉店の代表者が、センターの事務所にやってきた。テーブルには競りにかけられる牛の格付けや生産者の名前などが記された案内書と、長方形の青い菓子缶に入った黄色い鉛筆が20本ほど。「できるだけ長いがを、ね」。それぞれが競り人に見えやすい1本を選び、競り場に向かう。古くは人さし指を上げていたが、いつからか事務所が貸す黄色い鉛筆を上げるようになったという。
最後の手競りが行われた県広域食肉センター。4月からは左の新センターで食肉処理と競りが行われる
午後1時。「はい、早速それでは1号! 2100円~」。競り人の津野尚人さん(51)が台に立ち、独特の節回しでキロ単価を1円ずつ上げていく。
その「歌い」に合わせて、参加者が意地を張り合う。駆け引きをする。誰が最後まで鉛筆を上げていたかを判断するのは、競り人の目だ。「みなさんの商売が自分の目にかかるので、毎回緊張する」。あかうしが登場すると鉛筆が次々と上がり、田野町で育った生後28カ月のあかうしが、この日の最高値1キロ2520円を付けた。
最後の2頭は子を産んだ雌のあかうしだった。「650円~」。上がる鉛筆はほどんどない。「最後やき、不買はいかん」。すでに、あかうし3頭を落としていた三谷ミート(香美市)の三谷高志専務(58)が651円で落とすと、どこからともなく拍手が上がった。
台を下りた津野さんは「何事もなく、ほっとした」。新施設では価格がモニターに表示されるため、「歌い」を続けるかどうかは未定という。ただ「歌いが、みなさんが値を上げるのを後押ししゆうところもあると思う。ちょっとでも高く売れるように、声を出せたらえいね」。
施設を開設当初から利用してきた、吉岡精肉店(高知市)の笠原健郎社長(78)は「長いこと世話になった。もっと拍手したいぐらい」と感慨深げ。新施設に向け「牛の生産数を増やすためにも、僕らが売り口をどんどん増やしていきたい」と意気込んでいた。
新センターは4月1日に操業を開始し、6日に初競りを行う。(蒲原明佳)