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2022.10.22 08:00

【英首相辞任へ】政策が招いた混乱と反発

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 大型減税を柱とした肝いりの経済政策がつまずき、世論の退陣圧力に抗しきれなかったようだ。インフレ対応など直面する課題の克服は次期政権に引き継がれる。難しいかじ取りを迫られるのは必至だ。混乱を深めないように、丁寧な取り組みが求められる。
 英国のトラス首相が就任から1カ月半で辞任表明に追い込まれた。政権の支持率は1桁台にまで落ち込み、不支持率は8割に迫る水準だった。与党保守党でも辞任を望む声が半数を上回り、続投には厳しい見方が強まっていた。
 英国は記録的な物価高騰に直面している。インフレ対策など生活支援が急務となっている。そうした中でトラス政権は経済成長を優先する方針を掲げた。前政権の法人税引き上げ方針を撤回し、所得税率引き下げなどを発表した。
 しかし、富裕層に恩恵が大きい減税方針は野党にとどまらず与党からも強い反発を招いてしまう。インフレ助長や財政悪化への警戒感から、金融市場は大きな動揺を見せた。
 十分な財源を示さない大型経済対策への懸念から国債が売り込まれ、利回りは急上昇した。通貨ポンドは市場最安値を更新し、株式は急落した。英中央銀行はインフレ対策を優先して主要政策金利を引き上げてきたが、金融市場の安定化へ一時的に国債の買い支えに乗り出さざるを得なかった。
 英政府の政策には、国内外から厳しい見方が向けられた。国際通貨基金(IMF)は、大規模で的を絞らない財政パッケージは「推奨しない」と批判している。減速する景気を立て直そうにも、市場との対話を怠るようでは新たな困難を生じかねない。財源を巡る論議は日本にも当てはまるだけに注意が必要だ。
 トラス氏は財務相を更迭し、経済政策の大部分の撤回に踏み切った。混乱を招いたことを謝罪したが、与野党からの批判は収まらず、事態打開にはつながらなかった。
 保守党の支持率は最大野党の労働党を大きく下回っている。ジョンソン前首相は不祥事への不誠実な対応が批判され辞任に追い込まれた。トラス氏は誠実な対応が求められたはずだが、政策が独り善がりの様相では受け入れられるはずはない。
 辞任表明を受け、次期首相を決める党首選の立候補受け付けが始まった。前回決選投票でトラス氏に敗れたスナク元財務相らのほか、辞任後も人気が高いジョンソン氏の動きが注目される。党内融和をいかに図るか。離反と分断が繰り返されるようでは党勢の回復は望みにくい。
 物価対策はもとより、外交ではウクライナ対応がのしかかる。対ロシア政策やウクライナ支援を巡り米欧各国で意見の相違も出ている。国際秩序の再構築へ責任は大きい。
 トラス氏は、日英の経済連携協定(EPA)発効などで手腕を発揮した。首相として、アジアとの関係強化が期待されたが、道半ばとなった。連携をいかに深化させるかも論点となる。

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