2022.07.31 08:37
憧れの舞台「やっと」 まんが甲子園、リアル開催にペン児歓喜
全国のペン児が3年ぶりにライバルたちと顔を合わせて競ったまんが甲子園(高知市の高知ぢばさんセンター=山下正晃撮影)
3年ぶりに全国のペン児が高知市に一堂に会して「まんが甲子園」が始まった。新型コロナ禍が続く中、国内外から訪れた選手や関係者は、会場の熱気を肌で感じ「やっと思い出ができる」「背筋が伸びる」と喜びをかみしめた。
「皆さん、まんが甲子園へようこそ」。高校生スタッフ代表で歓迎のあいさつをした宿毛工業3年の戸田早紀さんの声は、緊張と興奮で少し震えていた。
中学時代から「高校生になったら大会に行きたい」と憧れていた舞台。全国の漫画好きの人たちと交流したいと願っていた。だが、入学直後の20年大会は中止で、昨年はオンライン開催。「高校生活終わった…と思ってた」
待ちに待ったリアル開催の今年は、選手の力になろうとスタッフで参加。イラストなどの展示、販売を行うコーナーにも出展した。「褒めてもらえたり、欠点を見つけたり。同じものを好きな人同士でつながる、この空気をずっと体験したかった」と目を輝かせた。
昨年のオンライン大会を経験した選手たちにも、高知での戦いは格別だったようだ。
福島県の国際アート&デザイン大学校高等課程3年の後藤久美子さん。昨年は慣れた教室で競技に臨み、「みんな画面の中。熱が伝わってこなかった」。
今年は、隣のブースを見れば真剣な表情で絵を描くライバルがいて、ブースに飾ったイラストに興味を持った人が声を掛けてくれた。「漫画好きな人がここに集まっている。大会してる、って感じ。うれしい」とはにかんだ。
広島県の武田高校2年、大恵也実さんは「時間はあるのに変に焦ってしまって…。場の空気に圧倒されて、気合が空回っちゃいました」と苦笑い。敗者復活戦に回ったが、「全国トップレベルの画力、技術が学べる。すごく緊張したけど、参加できてよかった」と晴れやかな表情を見せた。
漫画文化の未来を担う若者たちが集うこの日は、運営を支える大人にとっても特別だ。7月に入り、開幕を前に新型コロナの感染が全国で急拡大。運営側は可能な限り通常開催の形を残しながら、リスクを減らす方法を模索した。
生徒らが絵を描く競技ブースやステージには一般の来場者が入れないよう動線を分離。高校生スタッフの作業工程を変更・縮小したり、落書きボードをなくしたりと、工夫が凝らされた。
審査員のくさか里樹さんは「生徒たちの入場行進を久しぶりに見て、『漫画を描く子たちがこんなにいるんだ』とリアルに感じられてうれしかった」と目を細めた。
鳥取県・米子高漫画研究部の河本文則顧問(46)は「このコロナ下でこれだけの大会を運営することが、どれだけ大変か」と感謝し、こう力を込めた。
「高知の空気を吸いながら戦える2日間は生徒にとって本当に大きい。狭い世界から一歩外に出て、視野を広げたり、感情を揺さぶられたりする機会はまんが甲子園しかない」(森田千尋、徳澄裕子)