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2022.05.01 08:00

【解雇の金銭解決】「不当」防止の対策こそ

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 労働者の不当な解雇を金銭で解決する制度について、厚生労働相の諮問機関である労働政策審議会が導入の是非を本格的に議論する見通しになった。
 金銭解決制度は議論の俎上(そじょう)に載るたび、労働者側が「不当解雇が横行する恐れがある」などと反対し、導入が見送られてきた経緯がある。その不安はいまも根強いままだ。不当解雇を「前提」とした制度は到底容認できまい。不当解雇を防ぐ対策こそ求められよう。
 労政審での議論を前に、厚労省の有識者検討会が法的な論点を整理する報告書をまとめた。訴訟や労働審判で解雇無効が確定した労働者が希望すれば、企業から金銭を受け取って労働契約を終了する仕組みを想定する。
 労働契約法は「社会通念上相当であると認められない解雇は無効」と定める。使用者に比べて立場の弱い労働者を保護するため、厳しく規制している。
 それでも労働者と企業のトラブルは後を絶たない。厚労省によると、個別労働紛争の相談件数は2020年度、27万8千件以上に上り、近年も緩やかな増加傾向にある。
 訴訟で解雇が無効と認められた場合に、裁判所は職場への復帰を命じる。ただ労使間の信頼関係が崩れた状況では、復帰しにくいという労働者がいることも確かだ。実際、和解などの形で、解雇を受け入れる代わりに金銭補償を受ける事例も多いとみられる。
 金銭解決制度はそうした実態を追認する形にもみえる。だが、訴訟による解決と、社会的にルール化を図るのでは大きく意味が異なろう。
 不当解雇を「前提」とした仕組みの導入は、不当な解雇そのものを広く容認することにつながらないか。「金さえ払えば解雇できる」という状況を助長しかねない。
 報告書は、金銭解決の申し立ては労働者に限定し、企業側は対象外とする。ただ、どこまで歯止めになるかには疑問が残る。
 労働者の意思に反して企業に利用を迫られたり、導入後に企業側の申し立てを認めたりする可能性は排除できない。
 金銭解決制度は02年と06年にも議論され、安倍政権時の15年に閣議決定した「日本再興戦略」に盛り込まれたことで議論が続いている。企業を優遇してきた経済政策「アベノミクス」の延長線上に位置付けられた政策であることは明らかだ。
 政府は、同制度を「労働者の選択肢を増やす」と位置付け、「解雇トラブルの速やかな解決を図る」と労働者側のメリットを強調してきた。しかし、労働者側は「解雇の手段を多様化する」と一貫して反対し続けている。当事者が拒否する制度が本当に必要なのか。根本的に考える必要があろう。
 そもそも法律上、企業による不当解雇は許されていない。労働者の相談件数も高止まりする中、優先されるべきは不当解雇の防止強化であることは言うまでもない。

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