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2022.02.04 08:00

【DNA型保管】警察の運用基準が曖昧だ

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 「究極の個人情報」は厳正に取り扱われなければならない。市民の感覚から言えば当然の司法判断と言えよう。
 暴行で逮捕・起訴された後、無罪が確定した男性が、警察が保管しているDNA型などのデータ抹消を求めた訴訟で、名古屋地裁は抹消を命じた。
 DNA型や指紋などのデータベース(DB)が、犯罪捜査に貢献しているのは確かだろう。だがその情報価値ゆえに、恣意(しい)的な取り扱いがなされれば人権侵害に直結する危うさを伴う。法的な根拠に乏しい現在の運用状況を踏まえれば、早急に厳格で明瞭なルールを設ける必要がある。
 今の犯罪捜査で、DNA型や指紋などのデータを使う科学的手法は欠かせないという。長期未解決事件の容疑者特定、冤罪(えんざい)防止につながるケースもあろう。警察庁によると、保管する容疑者のDNA型は2020年末時点で約141万件に上る。
 科学的な精度も向上して捜査の決め手になり得る分、運用の仕方によっては懸念も生じる。今回の訴訟で浮き彫りになったのは、そうした危うさと言ってよい。
 原告の男性は、警察が捜査で採取し、保管するDNA型や指紋、顔写真のデータを抹消するよう求めた。無罪の確定後も、警察に監視されているような感覚が続いたという。強制権を持つ捜査機関に重大な情報をいつまでも握られていれば、圧迫を感じても不思議ではない。
 男性の訴えに対し、警察側は法令に基づき、データやDBを保管・運用しているとした。
 だが、裏付けとなる法律はなく、国家公安委員会の規則などを根拠にしているのが実情だ。原告が求めたデータ抹消についても、規則は「死亡したとき」、「保管の必要がなくなったとき」とするにすぎない。
 名古屋地裁はこの根拠の曖昧さを指摘。その上で、無罪が確定した人のDNA型などのデータを継続的に保管する場合、余罪の存在や再犯の恐れなど具体的な必要性が示されるべきだと判断した。原告、警察側とも控訴した。 
 規則の曖昧さは、実質的に運用が警察の裁量に委ねられている側面が大きいことを意味する。捜査機関からすれば、DBは蓄積したデータ量が多いほど効果が期待できよう。
 一方で市民は警察の運用実態を把握できない。捜査段階で容疑者以外の人が採取に応じることもあろう。そのデータはどう扱われるのか。疑問を感じても確認するすべはない。運用基準がはっきりしなければ安心できまい。
 社会の安全が担保される重要性はもちろんだが、憲法はプライバシーや個人の情報が公権力によってむやみに取得、利用されない自由も保障する。
 海外では警察とDBを運用する組織を切り離したり、裁判所が必要性を判断したりする国もある。恣意的な運用が生まれる余地を許さない仕組みが求められる。

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