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2025.12.22 19:02

【全文公開】危険察知 幼少期の冒険に学ぶ―釣りという幸せ 高知のアングラー・リレーエッセー(24)

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 2016年9月8日付紙面掲載の記事を復刻します。


親子の釣行には、命を守るのに大切なことがたくさん詰まっている

親子の釣行には、命を守るのに大切なことがたくさん詰まっている

 小学校高学年の秋、父が薄いFRP(繊維強化プラスチック)の小さな、小さな手こぎボートを用意してくれた。「釣ってこい」と一言。友達と2人で乗り込み、オールをこいで浦戸湾へ出た。ニロギ釣りだ。必死にこいで、瀬戸漁港から玉島までは約1キロ。大冒険であった。

 ボートの周りには地元の漁師のおんちゃんがいた。年季の入った漁船から、「おまんらー大丈夫かよ!」と声をかけ、笑いながら見守ってくれた。帰りは、そのおんちゃんが「こっちの船に乗りやぁー」と言って2人とも乗り込み、小さなボートを引いて帰った。

 振り返ると「おやじはよく行かせたものだ」と思う。

 「洋」とつく私の名前は、海が好きな父がつけた。物心ついたころには、もう一緒に釣りをしていた。針の結び方など、一つ一つ教わった記憶はない。それぐらい、釣りが生活の一部だったし、自然の中でさまざまな経験や知識を、実体験として取り込んだ。

 カニやエビ、魚の習性。虫の取り方。川や山道の歩き方。危ないヘビや植物の種類―。

 そして、危ない場面では必ず父が助けてくれた。危険を予知して必ずそばにいた。増水する川に落ちた私を、腕を掴(つか)んで引き上げてくれたこともあった。父がいなければ、私は死んでいた。

 昔は子どもたちが増水する川に沈下橋から飛び込み流れて遊んだ、なんて話も聞いたことがある。ガキ大将は、「ここから飛び込むと、あそこに流れ着く」と、自慢げに“知識”を披露していたという。

 子どもにとって危ないことを避けるのが親の心情だし、本当に危険なことはすべきでない。

 ただ、われわれの世代は、どこまで自然を理解しているだろう。命を守る術(すべ)を知っているだろうか。子どもたちに、自然との付き合い方を伝えられるだろうか。

 この夏、県内で水の事故が相次いだ。原因はいろいろとあるだろう。ただ、幼少から「汚れては駄目」「虫に刺されるから山には近づくな」ばかりでは、危険を察知する能力が身に付くはずがない。

 自分が親になったいま、息子の乗ったボートを押し出した父の愛情がよく分かる。

 弘瀬伸洋(理髪店「床屋」店主=高知市瀬戸1丁目)

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