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2025.12.22 18:58

【全文公開】大物との格闘 魚の呼吸を感じなさい―釣りという幸せ 高知のアングラー・リレーエッセー(27)

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 2016年9月29日付紙面掲載の記事を復刻します。


失敗を繰り返して得た大物。喜びが心に刻まれる

失敗を繰り返して得た大物。喜びが心に刻まれる

 鼻をへし折る、とはああいうことを言うのだろう。

 子どものころ、私のフィールドは近所の浦戸湾だった。毎日のように通い、チヌやニロギ、ハゼ、ボラ、スミヒキ、エバ、ウナギなどを釣った。

 父が私を沖の船釣りに誘ったのは、ちょうどこれらの釣りを一通り覚えたころ。“てんぐ”になっていた時期だった。

 釣り場に着くと、父が取り出したのはブラックバス用のタックル。3号のナイロン糸に針を付けただけの仕掛けで、イカや小魚の切り身を餌にして潮に流す。

 これだけ?

 半信半疑の私が竿(さお)を握って待っていると、突然糸が走りだした。「ジー!」とドラグが鳴る。慌てて竿を立て反撃態勢をとるが、「バチン!」。あっけなく切れてしまった。

 幼いながらに悔しさをにじませる私。それを見て、父はにやにやしながら「もう1回やるか?」。

 再び餌を流してドラグを少し緩めたところで、数十メートル向こうの海面がざわついた。「グンッ」と強烈な重みが伝わり、竿を立てる。が、いっこうに寄って来ない。気持ちが焦り糸を巻き始めると、父が「やられるぞ」。その瞬間、またも…。

 「細い糸で大きい魚を釣るには強引にやるだけでは駄目じゃ。魚の呼吸を感じなさい。それと、ポンピングを使わないかん」

 ポンピングとは、糸を巻かず魚の引きに合わせて竿を頭上まで起こし、倒しながら糸をリールで巻き取るテクニックだ。竿を曲げて弾力を生かせば糸には優しい。半面、急激なショックにはもろいものだと教わった。

 今度は父が釣る。

 暴れ狂う魚をいなして、いなして、数分でエメラルドカラーの魚体が浮かび上がってきた。


 「これ何!?」「シイラじゃ」
 私は興奮し、父から竿を奪い取った。

 あらためて格闘する私に、傍らからアドバイスが飛ぶ。糸を張りすぎるな。走らせろ。今だ、巻け―。

 そして今年、同じことをしている自分がいる。悔しがる息子に、にやにやしながら声を掛ける。切られて、切られて、やっと手にした1匹のメジロ。あの時、私が釣ったのより高級…。

 さて、どんな釣り人になるか。

 弘瀬伸洋(理髪店「床屋」店主=高知市瀬戸1丁目)

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