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2025.12.22 18:52

【全文公開】命を食す ウナ太郎とフカ干し―釣りという幸せ 高知のアングラー・リレーエッセー(45)

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 2017年2月16日付紙面掲載の記事を復刻します。


息子が釣ったフカを干物に。忘れられぬ味だろう

息子が釣ったフカを干物に。忘れられぬ味だろう

 猫がネズミを捕まえて飼い主に見せに来る―。そんな気持ちだったろうか。小さい頃、いつも釣った魚を家に持ち帰った。

 食べたかったわけではない。両親に「すごい!」と言ってもらいたかった。特に栄養士で料理名人の母は、どんな魚もおいしく料理して食べさせてくれ、一段とうれしかった。

 ある時、「ウナギが食べたい」と父が言った。喜んでもらいたくてウナギを釣り、土用の丑(うし)の日まで飼うことにした。

 使命感に燃え早起きして餌をやり、学校が終わると一目散に帰ってランドセルを投げ捨て、また餌をやり眺める日々。当然、名前も付けた。


 「ウナ太郎」
 そして、土用の丑の日がやってきた。学校から帰ると、父が「さあ、捌(さば)くぞ」と言う。私は急に心を引き裂かれる気持ちになり、言った。

 「ウナ太郎は食べない!」

 完全に情が移っていた。察した父は包丁を置き、逃がしに行こうかと言う。「うん!」。以来、わが家の笑い話となった。

 さて今年。息子が私の父と海に出て、70センチを超えるフカ(サメ)を釣り上げた。誇らしげに獲物を持ち帰ったらしいのだが…。

 仕事中の理髪店に電話がかかってきた。受話器の向こうで息子が泣いている。お客さんに謝って、近くの自宅に迎えに行った。聞くと、母親に褒めてもらえなかったという。無理もない。突然のフカである。強烈な“釣果”の披露に、妻は驚いてしまったのだ。

 「ようやった。シャークハンターや!」

 私は妻の分も褒めた。お客さんやスタッフにも見てもらうと、息子は上機嫌になった。そして、「命を取ったら食すのは礼儀」がモットーの私は、「干物にして食べてみるか?」と勧めた。

 それからというもの、網の上で干される切り身を毎日のように見つめては、「僕の釣ったフカおいしいろうかね」と聞いてくる。

 私にとってのウナ太郎と、その後の心境を振り返ると、幼い頃のこんな経験が命をいただくありがたさや生き物を重んじる気持ちにつながっている。テレビゲームやカード遊びでは、得ることができない実感だ。

 わが家の笑い話がまた一つ増えた。そして息子の心には、大切な人生の“財産”が一つ積み上がった。

 弘瀬伸洋(理髪店「床屋」店主=高知市瀬戸1丁目)

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