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2025.12.22 18:33

【全文公開】燻製 広がる香り、巡る記憶―釣りという幸せ 高知のアングラー・リレーエッセー(105)

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 2018年5月3日付紙面掲載の記事を復刻します。


手間暇かけて作ったアメゴの燻製

手間暇かけて作ったアメゴの燻製

 小さいころ、テレビを見ながらむしゃむしゃ食べていたおやつがあった。家の柱につるされた、茶色くなったアメゴの燻製(くんせい)だ。干物のようであり、少し酸っぱく、かめばかむほど口いっぱいに味が広がる珍味だった。

 そのころ、凝り性の父は鹿の角を削ってナイフを作ったり、革細工をやったり。そして、確かフライフィッシングに没頭していた。釣ってきたアメゴをいぶして、家の中につるしていたのだ。

 その父が最近、長く遠ざかっていたアメゴ釣りを再開した。そして4月、わが家に燻製が届いた。

 一口食べると懐かしく、まさに“故郷の味”。香りや酸味を感じながら目を閉じると、幼年期の思い出が頭を駆け巡った。

 あのころ、私が「この味好き」と言うと、父はにっこり笑って、「アメゴに行くか?」と、誘ってくれた。私と渓流との出合いだった。父と一緒に谷を歩き、大きな背中が見えなくなれば泣きながら追い掛けた。今も、あのころを思い出しながら岩を上がり、沢を歩く。そんな時間が心地よい。釣れなくても、クタクタになるまで歩き、自然を楽しむ。

 4月下旬の釣行後、自分で燻製を作ることにした。懐かしのあの味を求めて。

 初めは失敗。塩が足りず、味は薄く、香りも足りない。

 父に作り方を聞く。

 2度目は、下ごしらえ▽塩漬け▽乾燥▽いぶし▽熟成▽いぶし▽熟成―と手間を掛けた。かみしめると、ほのかな酸味が口に広がった。

 「うん、これだ!」

 ここまで手間が掛かるとは思わなかったが、実に面白い。凝り性のDNAは、やっぱり受け継がれていた。

 素朴な味わいと、保存食を自分で作れる喜び。また一つ、釣りの楽しみが増えた。

 さて先日、父から釣りたてアメゴが届いた。

 「燻製作ってくれ」との依頼であった。

弘瀬伸洋(理髪店「床屋」店主=高知市瀬戸1丁目)

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