2025年 12月20日(土)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

高知新聞PLUSの活用法
読者紹介バナーPC

2025.12.20 05:00

【核保有発言】戦後日本の歩み覆すのか

SHARE

 高市早苗政権が発足して以降、戦後日本が堅持してきた非核政策を土台から覆すような動きが続いている。政府中枢が核兵器の保有にまで言及したとなれば、危うさを感じざるを得ない。
 高市政権で安全保障政策を担当する首相官邸筋が、「私は核を持つべきだと思っている」と記者団に述べ、日本の核兵器保有が必要だという認識を示した。
 発言はオフレコを前提にした場だったとはいえ、唯一の戦争被爆国として「核兵器のない世界」の実現に取り組む政府の立場を著しく逸脱する。核廃絶を目指す平和国家としての信用を国内外で失いかねない。
 木原稔官房長官は、「政府としては、政策上の方針として非核三原則を堅持している」「戦後、わが国は一貫して国際社会の平和と繁栄に貢献してきた。この立場に変わりはない」として沈静化を図っている。
 ただ、高市政権は核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則の見直しを検討している。「持ち込ませず」の概念が、米国の核抑止力の実効性を低下させかねないとの判断だという。
 今回の官邸筋の発言も「持たず」を覆す議論に向けて、世論の反応を見る「観測気球」ではないかという疑念がわく。
 非核三原則は1967年、当時の佐藤栄作首相が国会で表明した。国会では関連決議が繰り返され、歴代政権も堅持してきた基本政策、国是である。戦後日本の歩みを一内閣が簡単に覆していいとも思えない。
 確かに、日本を取り巻く安保環境は厳しさを増している。北朝鮮は核開発を続け、中国も核戦力を増強する。日本の防衛は米国の「核の傘」に依存している現実がある。相手側の核使用を抑止するための核保有を正当化する「核抑止論」が、多くの国で定着してもいる。
 一方で、ウクライナを侵攻するロシアは核威嚇を繰り返し、核兵器が使用されるリスクは冷戦以降で最悪のレベルにまで高まった。安全保障を核抑止に頼ることの危うさを国際社会は目の当たりにしたはずだ。
 「持ち込ませず」の見直しに関しても、安保上の利益は減退するという指摘がある。核が配備された基地は有事に敵の攻撃対象になり、周辺住民の危険が格段に増す。また、中朝に核増強の格好の口実を与えかねないとされる。
 木原氏は、核兵器なき世界の実現に向けて核拡散防止条約(NPT)体制を維持、強化するための「現実的かつ実践的な取り組みを進める」とも強調した。
 歴代政権は、核保有国と非保有国の「橋渡し役」を自任してきた。しかし、その役割を果たしてきたとは言い難い。道は険しくとも、唯一の戦争被爆国として優先すべきは保有国を核リスク削減の交渉に引き入れる外交努力ではないか。
 核兵器保有発言には、自民党内も含めて与野党から更迭要求が出ている。高市政権には戦後日本の歩みを深く考慮した対応を求める。

高知のニュース 社説

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月