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2025.11.28 13:46

【全文公開】『釣りという幸せ 高知のアングラー・リレーエッセー』(66) アクアパッツァ 前代未聞の注文 松岡浩司(BAR「深夜プラス1」店主=高知市帯屋町)

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 2017年7月20日付紙面掲載の記事を復刻します。



 高知市の繁華街「柳町」で、当店の看板に明かりがともるのは午後7時。磨き上げたバーカウンターがお客さまをお待ちします。ここでは日々、さまざまなヒューマンドラマが展開されます。さて今夜は…。

 間もなく、階段を上る足音が聞こえてまいりました。

 「いらっしゃいませ!」

 おなじみのMさまです。おや、片手に酒瓶が。どうも白ワインのようです。ボトルをカウンターに置くと一言。「マスター、これに合う魚を釣ってきてくれ」

 …。

 かつて、このようなオーダーを受けたバーテンダーが存在したでしょうか? この欄を担当して1年4カ月。私の釣り好きもお客さまに浸透しつつある昨今ですが、このご注文は度を超えています。もはや厄介事といっても過言ではありません。数秒の沈黙の後、こう考えました。

 「これは釣り人兼バーテンダーである私への新たな挑戦状だ」

 かくして、私にとって安らぎの空間であった釣り場は試練の場と化し、脳裏をあの白ワインに支配されることとなりました。

 白ワインの味を思い浮かべながら、今までに釣った魚でこしらえた料理を思い出します。その中から、「アクアパッツァ」を選びました。魚介類をトマトやオリーブオイルなどで煮込むイタリア料理です。

 基本的に私は船釣りや磯釣りをしません。ルアーでの「おかっぱり」(岸からの釣り)が中心で、狙える魚種は絞られます。アクアパッツァなら、あらゆる白身魚で対応できそうです。

 前代未聞の注文から数日後。私は潮汐(ちょうせき)表で狙いの時間を定めました。まだまだ営業中の午前2時前に、「これから“仕事”にでかけるから後はヨロシク!」と宣言しました。

 「は!? アンタ、また釣りかね…」

 声に出さずとも完全に疑いのまなざしを向ける従業員を尻目に、そそくさと店を後にして海に向かいました。

 高知市内のとあるポイントに到着し、第1投。直後に「ぎらっ」。ルアーの後ろで銀色の魚体が揺らめきました。

 「いける」

 3投目でググッ!

 バシャバシャッ!

バーテンダーが釣り、つくったアクアパッツァ

バーテンダーが釣り、つくったアクアパッツァ


 翌日、Mさまにはヒラスズキのアクアパッツァを提供し、辛うじて任務を遂行いたしました。ただ特例とはいえ、このエッセーが“やぶ蛇”となり更なる試練が押し寄せるのでは…。そんな恐怖におののいております。



 高知市帯屋町のバー「深夜プラス1」のマスター、松岡浩司さんのエッセーから、魚信編集部がお気に入りの作品をチョイス。カウンター越しの釣り談義と、ちょっとマニアな釣行が交錯する「いい話」を、バーボン片手にお楽しみください。

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