2025.10.09 16:39
【県外サポ密着・闘病編】推しは高知ユナイテッドサポーターのエネルギー源! 10/5沼津戦
バス待ちで対面
サポーターネーム・kanaさん(32)=静岡県浜松市=とは、沼津戦キックオフの約2時間前、春野陸上競技場の外周で出会えた。背番号11の高知Uユニホームを着ていた。「よろしくお願いします!」とあいさつしたらほどなくして選手の乗ったバスがやってきた。
流れる汗のしずく
「高知SC!(ドドンドドンドン)高知SC!(ドドンドドンドン)」。前節で連敗を止めた新生高知Uに対しサポーターの期待は高まっており、なかなかのボルテージだ。kanaさんも応援の鳴子を握りしめながら声を張り上げた。この日、高知市の最高気温は30.6度。kanaさんの額から汗のしずくが浮かんでは流れ落ちた。

暑さに負けず「バス待ち」で声出し
日陰で話を
高知Uに関するXの投稿で、筆者はkanaさんのアカウントは知っていた。が、ある時、体調面から遠征(アウェーツーリズム)がこの先もずっとできるわけではないような投稿を見つけてショックを受けた。こんなに大変な思いをしながら応援している人もいるんだ、と。詳しく知りたいな、kanaさんの思いを。体調に不安があるようだから、早速涼しい日陰に移動した。
さまざまな症状
「自己免疫性疾患なんです。肝炎だったり熱、だるさ、痛みがあり、歩行できなくなることや疲れやすさもあります」。暑い中、高知まで来てくれただけに元気そうに見えるけど、そうなのか…。「(医療が)進んでいるのですぐどうこうはならない」と聞いてほっとしたのもつかの間「急に起き上がれないことも」。えっ! 日差しが軒下のkanaさんの顔を照らしていたのに気づき、慌てて座る位置を変え、インタビューを続けさせてもらった。
元々は対戦相手
kanaさんは地元のJFLクラブ「ホンダFC」を応援してきたが、2025年シーズンから本格的に高知Uも応援している。きっかけを尋ねると、「気付いたら応援していたので…」と植え込みに腰掛けながら記憶をたどった。確か23年シーズン、高知Uはホンダと同じJFLで戦っており、「対戦相手」だった。

【ホンダFC―高知ユナイテッドSC】後半25分、高知UのDF今井那(5)がホンダの攻勢をはね返す(2023年7月、静岡県ホンダ都田サッカー場)
自身もサッカーを
「サッカーを楽しんでいる選手が多いな」。それが高知Uの第一印象であり、また応援の理由となった。自身もJ2ジュビロ磐田がスクール事業として運営し、主に知的障害者が参加するチーム「ジュビロ磐田ルナソルジャス」に昨年から所属しているという。「青々としたところを走るのって気持ちよさそうですね」と水を向けると「ええ」とにっこり笑った。ちなみにポジションはDFだそうだ。

ジュビロ磐田ルナソルジャスでプレーするkanaさん(提供写真)
J3参入を機に
ホンダはJリーグを目指さず、Jを目指すクラブを阻むことから「JFLの門番」とも言われている。24年シーズンに高知UがJ3参入を決めたことで「同一カテゴリー」ではなくなり、kanaさんは高知Uを応援しやすくなった。
サポーターと選手の関係
「高知について調べていて、『高知家』のロゴが目に留まりました」。高知県は一つの大家族、というコンセプトが気に入った。「高知Uのサポーターと選手との関係と一致している。(上のカテゴリーを目指すなどの)クラブの目標や選手に寄り添って共に戦うという熱い雰囲気に憧れる」そうだ。

福島ユナイテッド戦を終え、高知U選手とサポーターが記念撮影(7月26日、春野陸上競技場)
そんなkanaさんの「推し」はMF松本光平だ。

MF松本光平
苦しい状況でも
「松本選手は自分にとって特別な存在。もともと目は見えていたけれどトレーニング中に失明してしまった(筆者注:金具が外れ、両目を直撃。日本で手術を受けたが、右目の視力をほぼ失い、左目は矯正しても0・03しかなくなった)。苦しい状況の時にサッカーを諦めずに今も戦い続けている。その姿が勇気を与えてくれて」
【関連記事】「ハンディあってもできる」弱視の松本光平が高知ユナイテッド加入 35歳でJリーガー第一歩

目を保護するゴーグルを着用して練習に励む松本光平(土佐西南大規模公園陸上競技場=新田祐也撮影)
もしいなければ
kanaさんはすでに力をもらっていた。「治療しながら高知に遠征することも、彼がいなかったら本当に諦めてたなってくらい」
MF松本の著書「前だけを見る力 失明危機に陥った僕が世界一に挑む理由」も持ち歩いていた。

MF松本光平の著書「前だけを見る力 失明危機に陥った僕が世界一に挑む理由」
前だけ見る力
「苦しい状況の中でも『前だけ見る力』を付けていけば乗り越えていけるんだなってすごく感じます」と本の感想を教えてくれた。そう、それは病を抱えるkanaさんにも、リーグ戦後半で一つでも上の順位を目指す高知Uにも共通するかもしれない。
バラバラにはならない
前監督のパワハラ問題、社長の辞意表明、リーグ戦6連敗の頃は心を痛めた。「心配したけれど、バラバラにならないと信じていました。高知Uが積み上げてきたものはそんなに薄く軽いものじゃない。サポーターは(選手やクラブを)信じて拍手して激励の言葉でひたすら支え続けた。そういう行動を見ていたらバラバラにはならない、と」。
自宅で涙
連敗を止めたと知った時は体調がすごく悪かったそうだが、通院から戻った自宅で吉報を知り涙が止まらなかった。「やっと選手もサポーターも前へ進むことができた」

白石尚久監督の初陣を白星で飾って連敗を止め、喜びを爆発させる高知Uイレブン(北九州市のミクニワールドスタジアム)
前回は大敗
この日の対戦相手・沼津は前回対戦で0-4と大敗を喫した。どんなことを期待しますか? 「選手一人一人の力を生かしたプレーが見られるんじゃないか。負けたことはしっかり受け止めなきゃいけないけれど、それは気にせず自信を持って『自分たちのサッカー』をやってくれたら」。さあ、応援に行きましょう!
大杉が好セーブ
沼津戦のスタメンにMF松本の名前はなかった。高知は前半、再三押し込まれたがGK大杉啓が好セーブを連発!
大杉!(ドドドン)サトシ!(ドンドン)
頼りになるなあと思った矢先、ミドルシュートを決められてしまった! 意気消沈する高知Uのゴール裏。しかし応援が止むことはなかった。
《魂》
戦え(ドドドン ドン ドン ドドン)
俺たちとともに(ドドドン ドン ドン ドドン)
気持ち見せてみろ(ドドドン ドン ドン ドドン)
土佐の男なら(ドドドン ドン ドン ドドン)
Oh…
スタンドでは取材ができないため、kanaさんの姿を遠巻きに見守る。ゴール裏の芝生席。サポーターたちが持つ赤と緑の幕「バンデーラ」の所にいるのが見えた。今回の遠征中、行動を共にしてくれている高知サポーターの方々と一緒なので安心だ。あとはゴールシーンや勝利の瞬間を見届けてもらえれば…。
しかし高知Uは攻めあぐねた。鼓舞する意味でサポーターたちが歌い出した。
《春野》
春野じゃ 負けない 俺たちのホーム
俺らが ついてる 恐れずに進め アレアレ・・・
春野じゃ 負けない 俺たちのホーム
俺らが ついてる 恐れずに進め アレアレ・・・
《+3》
オオ オオオオオ 勝ち点3取れ!
オオ オオオオオ 勝ち点3取れ!
オオ オオオオオ 勝ち点3取れ!
オオ オオオオオ 勝ち点3取れ!
必死の応援も…
この日はFWジョップ・セリンサリウやMF三好麟大らが相手ゴール前に迫ったものの決めきれず。サポーター必死の応援も及ばずそのまま0-1で敗れてしまった。

【高知―沼津】後半30分ごろ、高知U三好(66)がゴールに迫るが、相手GKに阻まれる(春野陸上競技場=河本真澄撮影)
闘志は消えず
1点が遠い。チャンスがないわけではないが、届きそうで届かない。もどかしさや悔しさを、小林大智主将の鋭い眼光が物語っていた。その目を見れば闘志がなくなっていないことは明らか。ゴール裏のサポーターにあいさつに来た選手の列に、ねぎらいの拍手が降り注いだ。

小林大智主将らがサポーターの前に現れた
小さな背中
選手の列に吸い寄せられるように前方に向かったkanaさんは何度も何度も目元を指でぬぐっていた。拍手をして、また何度も指でぬぐった。芝生席を出ていきながら、同行の高知サポーターに肩をトントンとたたかれ、さすられていた。その背中が小さく小さく見えた。
場外に出て試合の感想を聞いた。
自分も頑張らなきゃ
「体調は心配だったけれどきょうは最後まで選手を後押しする気持ちで来たので良かったです。やり遂げました。選手たちの顔見たら自分も頑張らなきゃと感じて」
泣いてましたよね?
「はは、バレましたか」
サポーターの出迎えは激励ムードでした。
「これから上のカテゴリーを目指すのであれば、選手たちにも厳しい声はあるとは思うけど、まだまだやれると思って頑張ってほしい」

【高知―沼津】0―1で惜敗し、肩を落とす高知Uイレブン(春野陸上競技場=河本真澄撮影)
会いたい人
試合は終わった。が、kanaさんには会いたい人がいた。その姿を求めて場外を歩いた。いわゆる「出待ち」だ。同行のサポーターから「選手がいた!」と電話があるたび、駆けつけたがお目当ての選手ではなかった。
万事休す
この日に限って筆者は次の予定があり、すぐ春野を出発しないと間に合わない。試合終了からは40分ほど経っていた。過去のサポーター密着記事ではそれぞれ「推し」選手がゴールを決めたり不意に目の前に現れてサインをしてくれたりとプチ奇跡が起きていた。が、この日はここまでか。そんな都合良くいかないよね。「もしその選手に会えて一緒に写真撮れたら送ってください! すみません、失礼します!」。泣く泣く取材を打ち切った。
「あれ、金髪の! いました!!」

ファンと触れ合うMF松本光平
感動のご対面
いるんかい!と突っ込みたくなったが、kanaさんは「う、う、へ、へーん」とへたり込んだ。やば、もらい泣きしそう。感動の対面に周囲のサポーターもジーン。だがすぐわれに返ると「早う、早うし!」とサインや写真撮影のお願いをkanaさんに促し、どっと沸いた。
サインしてください
「松本光平」の文字がデザインされた選手タオルや著書をバッグから取り出すkanaさん。「難病で…」と自分のコンディションを説明した。

推しの降臨にうっとりした表情のkanaさん
尊い存在
MF松本はkanaさんの目をまっすぐ見つめ、「(自分に)できることはありますか?」と優しく尋ねた。「頑張ってくれるだけで…、いてくれるだけでいいです! いてくれるだけで!! 本当に頑張ってください」。kanaさんのテンションの高さにまた笑いが起きた。そう、推しは存在してくれるだけで尊いのだ。
どうやって再起?
kanaさんは聞いてみた。「自分もこれからどうなるのかすごく怖くて…。松本選手は目の件があった時どうやって…(再起しましたか?)」。「目標があったのでそこに向かってやるしかないと思ってずっとやり続けてました。たくさんの人が支えてくれたおかげで頑張れたと思ってるので」「似たような境遇の人たちからいっぱい勇気をもらってきたので、ちょっとでもやれることがあったら言ってください、何でもするので。頑張ってください。遠くからありがとうございます、本当に。ありがとうございます!」
次はピッチで
「頑張ります」。ほくほくの笑顔のkanaさん。「(次は)ピッチで!(会いましょう)」と激励するとMF松本は「(試合に)出られるように頑張ります」と応えた。

kanaさん、MF松本光平と念願のツーショット。良かったね!
希望の光
こうして筆者は三度目の奇跡を目撃した。光を失いかけ弱視となったMF松本が、kanaさんにとって希望の光となっている。さまざまな事情でスタジアムに行きづらいサポーターにとっても、各選手やクラブの存在はきっと、これから歩む道を照らす光なのだ。(藤枝武志)
【10月11日追記】
物語はまだ続いていた。心優しいMF松本は取材時、kanaさんの脇にいた筆者にも「何かできることはありますか?」と尋ねてくれていたのだった。現役Jリーガーからの思わぬパス。筆者は思い切って飛び込んだ。
すみません、そんなに探していただいてるとは知らず、暑い中お待たせしてしまって本当に申し訳ありませんでした。
kanaさんとお話しをさせていただいたように、僕の場合は目標があったのでそこに向かって進んでいっただけという感覚でした。
「試合に出てください!それを見ることが私の目標です!」と言っていただいて、難病にも負けずこれからも頑張ると、kanaさんが約束をしてくれたので僕も今シーズン絶対にピッチに立つことを約束します。
kanaさんの目標になれるように、まずは自分も早くけがを治して、Jリーグの舞台でプレーしている姿を1日でも早く見せたいと思います。

固く握手。サポーターと選手の絆って素晴らしいな
「可能であればkanaさんにスペシャルメッセージをいただけたら……」といういきなりのお願いにも関わらず、スタッフの方のアシストも得て後日、本当に送ってくださった。松本光平選手、本当にありがとうございます! 思いはきっとkanaさんに伝わることでしょう。そして同じように前へ進もうとしているサポーターの心にも…。





















