2023.04.06 08:00
【トランプ氏認否】さらなる分断を危惧する
ニューヨーク州の大陪審に起訴されたトランプ前大統領は罪状認否に臨み、全面的に無罪を主張した。前大統領が勝利した2016年大統領選を巡り、選挙戦を有利に進めるために自身に都合の悪い情報の隠蔽(いんぺい)を図り、業務記録を改ざんした州法違反で34件の罪に問われている。
州検察によると、不倫関係にあったと主張する女性に口止め料を支払ってもみ消しを工作し、その口止め料の弁済を「弁護士費用」と偽って不正処理したとされる。州検察は、「大統領選をゆがめた」と指摘する。これに対し前大統領は、「捜査ではなく迫害だ」と徹底抗戦の構えを見せている。
口止め料疑惑を巡っては、前大統領の元弁護士は実刑判決を受けている。また、前大統領の一族企業による税務不正でも元幹部らが有罪となったが、いずれも前大統領の立件は見送られてきた。
こうした流れも関係し、共和党の有力議員からも司法手続きを武器にしているなどと反発の声が上がる。民主党候補として当選した地方検事が捜査を主導したことに司法の政治利用だとの批判は一部に根強い。
一連の動きについて市民の受け止めも分かれている。責任追及を歓迎する意見がある。一方で政治的動機に基づく捜査との非難が出る。裁判所の外では、前大統領の支持派と反対派が怒号を浴びせ合い、小競り合いも起きたようだ。分断が根深いことを見せつける。言うまでもなく、見解の違いはあっても過激な抗議活動は自制されなければならない。
前大統領は起訴前には自身が逮捕されると情報を流し、支持者らに抗議するよう呼びかけた。検察への圧力とともに、岩盤支持層の結束を狙ったのだろう。対決色が強まるほど求心力や存在感が高まると判断しているのかもしれない。実際、調査では支持率が高まっている。
だが、共和党内の団結に結びつくとは言い難い。前大統領は21年の連邦議会議事堂襲撃事件で支持者らを扇動した疑いや、私邸への機密文書持ち出し疑惑でも捜査が続いている。このため党内穏健派や無党派層の離反を警戒する見方も出る。
今年1月の下院議長選は、前大統領に近い議員が造反して歴史的な紛糾となった。譲歩を重ねる様子は党内分断を露呈した。今回の刑事手続きへの不満では一致しても、政治姿勢の違いから摩擦を生じかねない。
再び大統領候補にするかは米国民の判断が問われそうだが、起訴されていても選挙運動を続けることは法的には可能だ。しかし、党内の大統領選候補の指名争いも混迷の度を深めることは間違いない。情勢はウクライナ支援や中国政策の在り方などにも関係するだけに影響への警戒が怠れない。