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2021.09.16 08:23

【全文公開】夏の夜の宝物 仁淀川アユの思い出―魚信 はっぴぃ魚ッチ 弘瀬伸洋

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アユのえらぶた付近に黄色く浮き出た「追い星」。宝物の象徴だった

アユのえらぶた付近に黄色く浮き出た「追い星」。宝物の象徴だった

 秋の風を感じながら大アユを狙い、「オレの夏はまだ終わらない!」と心中で叫ぶ今日この頃。「アユ」と「夏」の組み合わせで、いつも思い出す光景がある。

 小学生の頃、両親は仕事で忙しく、夜はほとんど祖母の家に預けられていた。ほぼ休みなく働いていた印象だが、たまに一緒に過ごせる夜があった。

 そんな時、父は「行くか?」と聞いた。「行く~!」とうきうきしつつ答えたのがアユ漁。仁淀川で投網を打つのが夏の恒例行事だった。

今はない八田沈下橋=手前=と、新設された八天大橋

今はない八田沈下橋=手前=と、新設された八天大橋

 向かったのは下流の八田沈下橋付近。既に取り壊され、今は近代的な八天大橋が架かる。野中兼山が建設した八田堰(ぜき)の下流にあり、用水路沿いを走る車の窓から川の香りを感じるのが大好きだった。

 日の暮れた川に着くと防水の懐中電灯とビクを手に、父親の後ろをそっと付いていく。

 真っ暗闇。父が静かに投網を振ると、「バザァー」と水面を覆う音がする。「ボクの出番だ!」と言わんばかりに飛び込むのだった。

 ライトをつける。光に驚き、逃げ惑うアユを追いかける。

 「いやぁ~、逃げられた。そこ! そこにも掛かっちゅう」

 投網の端っこに引っ掛かるアユの頭をつまんで取り込み、石にへばり付いて逃げる強者を押さえつける。その瞬間のイメージは今でも脳裏に強く焼き付いている。黄色く輝くアユの「追い星」が、まるで黄金の宝物に思えた。

 投網を河原の石の上に引き上げると、そこらじゅうにぴちぴちとアユが跳ね回った。私はまた必死で追い回す。その姿を父はきっとほほえんで見ていたのだろう。

 家に帰ると、体は冷えていて気持ち良く、ぐっすり眠った。自分の手からほんのり海苔(のり)のようなアユの香りがした。

 さて、今年はアユの不漁を耳にした。遡上が少ないとか、放流量の問題だとか、冷水病が深刻だとか…。

 昔から、豊漁の年もあれば不漁の年もあったけれど、近年は良い年が減っている。このままだとアユがいなくなる日が来るかもと心配になる。

弘瀬伸洋

弘瀬伸洋

 私の思い出話のような、活気あふれる川が戻る日は来るのだろうか。

 そう願いながら、私と父は毎年、親子で仁淀川の遊漁券を贈り合っている。(理髪店「床屋」店主=高知市瀬戸1丁目)

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