2019.06.06 08:23
【全文公開】アメゴの秘境? 樽の滝への大冒険―釣りという幸せ 高知のアングラー・リレーエッセー(150)

30年前の秘境。冒険の舞台だった樽の滝
親友のダイスケが私の家に遊びに来た時、親父(おやじ)がおもむろに鏡川のアメゴ釣りの話をしてくれた。
旧鏡村に滝があり、その上流にたくさんのアメゴが潜んでいるという。現在の高知市鏡今井にある「樽(たる)の滝」。私の家からは片道約20キロもある。
人の立ち入らない奥地の秘密のポイント―。ちょうどアメゴ釣りを習い始めた頃で想像が膨らみ、いてもたってもいられなくなった。
「行こう」。ダイスケと2人でうなずき合った。はやっていた子ども小説「ズッコケ三人組」の影響で「自分たちで何かをする」という気持ちだったかもしれない。
さっそく家にある地図を引っ張り出して道を調べ、リュックに荷物を詰めた。作戦会議の結果、こっそり夜中に抜け出すことに決めた。
午前3時、自転車で高知市横浜を出発。真っ暗な中、上町にあった「かつら釣具」で餌のイクラを買った。暗いうちに開いているコンビニなどない時代だった。宗安寺近くの道沿いにあった自動販売機でカップ麺を買って販売機の明かりの中でお湯を注ぎ、肩を寄せ合ってすすっていると、私のラーメンに蛾(が)が飛び込んだのは衝撃だった。
ここから先は街灯もない。自転車を押して山道を上っていくと、徐々に明るくなってきた。滝の入り口に着いたのは、10時ごろだったと思う。
さらに山の中の草を分けて進み、滝を目指す。古いお墓があり、大正何年とかいう文字が書いてあった。ムード満点だが、2人とも「怖い」とは言わない。というか本心を口に出せない。意地を張り合って、ひたすら薄暗い山道を進んでいくと、突然―。
バサバサバサッ!
頭上で大きな鳥が羽ばたき、2人ともぶっ飛ぶように地面に転げた。そのまま目を合わせて大笑いした。
はいずるようにしてたどり着いたのは、2段になった樽の滝の頂上のさらに奥。思ったより小さな流れだが、まさに聖地のような雰囲気に、思わず「おおっ!」と声が出た。予定通り釣りを始めるが、うっそうと木が覆い被さり思うようにいかない。なんとか竿(さお)が入れられる場所で、モツゴが釣れただけだった。
「帰ろうか…」

遠く感じた道も帰りは早い。自転車でピューッと下りながら、小説の主人公のような気分に浸ったものだ。
さて最近、このことをダイスケの父親に話してみた。すると、「わしは子煩悩やき、そんな危ないことは許すわけない」という。
オンチャン。子どもはいろんな冒険しゆうがで。知らんだけよ。
弘瀬伸洋(理髪店「床屋」店主=高知市瀬戸1丁目)




















