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2024.05.01 08:00

小社会 悪役紳士

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 10年ほど前の本紙コラムに面白いせりふを見つけた。明徳義塾高の馬淵史郎監督が、ダハハと笑いながら語っている。「俺は高校野球界のタイガー・ジェット・シンやもん」

 32年前、夏の甲子園で松井秀喜選手を5敬遠し、騒動を巻き起こしたことへの自虐的ジョークだった。あの敬遠は理解を示した専門家も多いし、もう随分前のこと。気にしなくても。とはいえ悪役は強くないと務まらないという鉄則でいえば、監督は今も有資格者かもしれない。

 馬淵さんが言うシン選手は、かつてプロレス界で「インドの狂虎」の異名を持つ悪役の代名詞だった。県民体育館に興行を見に行った中学生のころ。ターバン姿でサーベルをくわえ、車から降りてきた彼に恐怖した覚えがある。

 アントニオ猪木さんを相手に反則の限りを尽くす。正統的な強さも持っていた。ノンフィクション作家、故山際淳司さんの随筆に「いい悪役のいない映画はつまらない」とある。それを体現する存在だった。

 先ごろ懐かしい名前を見たと思ったら、旭日双光章の受章だった。カナダで慈善団体を運営。東日本大震災に心を痛め、福島で自宅を失った児童らに義援金を送った。「日本人は家族のような存在だからね」。虚実ない交ぜで悪役をやりきったプロ中のプロだったか。

 震災などの悲劇は今も絶えない。支援する「悪役紳士」の気持ちは見習わないと。あの体育館での恐怖は消えないが。

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