2023.06.26 08:42
絵に魂を吹き込む アニメーター 池田明日未さん(21)高知市―ただ今修業中
「生きたキャラを描く。その目標に向かい突き進みたい」と話す池田明日未さん(高知市はりまや町2丁目のスタジオエイトカラーズ)
作画スタッフとしてテレビに初めて名前が出たのは、入社して2カ月が過ぎた頃だった。
ドラえもんが、ポケットから「ひみつ道具」を取り出し、説明する口の動きや影、のび太の姿を3時間ほどかけて描いた。全部で5コマ、放送では4秒に満たないカット。それでも、今年2月に放送されると、とってもうれしかった。
「誰もが知ってる作品だから周りの反応も大きかった。みんなに仕事を分かってもらえた」と声を弾ませる。
高知市のアニメ製作会社「スタジオエイトカラーズ」に入社して9カ月。同年代の同僚25人と、アニメのデジタル作画に取り組んでいる。
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高知市出身。漫画やアニメが大好きで、神田小学校時代は少女漫画雑誌「ちゃお」で連載されていた漫画のコマを模写したり、キャラクターを描いたり。
同級生らに見せたことはなかった。ただただ、「絵がうまくなりたい」とこつこつ描き続けた。土佐女子中高時代はバンド活動に熱中したが、「イラストの仕事に携わりたい」と東京のデザイン専門学校へ。ゲームのイラストを専攻した。
2年間、作画用のデジタル機器を扱う技術を学んだ。卒業後は「新型コロナ禍で就活もオンラインでできる。東京に固執することはない」と帰高。ゲーム会社への就職を目指し、自己PRの作品作りを進めていた。
そんな時、母親にたまたま「こんな会社がある」と教えられたのが、前年7月に設立されたばかりのスタジオエイトカラーズだった。同社で1週間、インターンをして「いろんなことが学べそう。挑戦したい」。2022年10月に飛び込んだ。
10メートル四方のオフィス内。十数人のスタッフがそれぞれ、目の前の4台ほどのモニターに向き合う。コツコツ、カタカタ、手元のタッチペンを走らせる音だけが響く。自社制作や他社の受注で描き、勤務時間は午前10時~午後7時、週休2日。
「もちろん、急ぎの仕事があれば残業です」
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アニメの原画は、せりふや場面設定などが書き込まれた絵コンテを基に作る。ただ、コンテの指示通りでは「センスがない、となる」
「なぜ、このカットがあるのか。キャラの立ち位置とか、絵コンテに込められた演出の意図をくみ取る力が重要なんです」
例えば、主人公が好きな相手の家を訪れた場面を描いた時。カウンターテーブルをまっすぐ描き、置かれたコップを目立たせたが、発注元の演出担当者から「キャラの不安定な心理状況を表す構図ではない」と突き返された。採用されたのは、テーブルをやや斜めに配し、コップを小さく控えめにしたカット。
「『絵を描く』だけでは気付けなかった。ちょっとした見せ方の違いで雰囲気が変わる。奥が深い世界なんです」
今や会社の主力だ。これまでアニメ「東京リベンジャーズ」の作画に関わり、今は「ポケットモンスター」に携わる。
好きな言葉
作業はデジタルだが、操るのは人間だ。きょうもコツコツとペンを動かし、絵に魂を吹き込む。
写真・森本敦士
文 ・富尾和方