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2022.05.11 08:00

【露大統領の演説】侵攻は正当化できない

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 隣国ウクライナへの軍事作戦は、ロシアを守るための唯一の正しい決定だった。対ドイツ戦勝記念日の式典で演説したプーチン大統領はこう主張し、侵攻を正当化した。
 戦果をアピールしにくい状況にある中で、危機への対処を印象づけようとしたように映る。だが、そうした姿勢はウクライナはもとより各国から支持を得られはしない。
 プーチン氏は演説で、昨年末に新たな安全保障の枠組み構築を提案したが、北大西洋条約機構(NATO)諸国が耳を貸さなかったと責任を押しつけた。さらに、絶対に受け入れられない脅威が国境沿いにつくられたと批判し、ネオナチとの衝突は避けられなくなったと訴えた。身勝手な言い分だ。
 侵攻開始から2カ月半になる。ウクライナの民間人数万人が亡くなったとされる。病院や避難者を受け入れた学校にも攻撃が向けられる。一部の都市は壊滅状態になった。
 一方、ロシア軍の戦果も想定通りではないとみられる。ウクライナの首都キーウ(キエフ)を短期間で陥落させる思惑は空回りし、戦力を東部地域に重点配置しても狙い通りには掌握できていないようだ。ロシア側の戦死者を約1万5千人とする推測も出ている。
 このため、プーチン氏が演説で、国家総動員が可能になる「戦争」状態を宣言するのではないかとの見方が示されていた。警戒されたが、ひとまず見送られた。
 今回言及されなかった背景として、早期の決着を目指しながら実現できなかった作戦上の誤りを、戦争宣言が認めることにつながりかねないからとする分析がある。大規模動員が始まるようなら国民の反発は避けられず、政権基盤に影響しかねないことも指摘される。
 だが、こうした負の側面は演説前から分かっていたことだ。それにもかかわらず宣言の観測が出たのは、そうせざるを得ないほど戦果が乏しいと分析されたことが要因とみられる。状況を改めるため、攻勢を強める姿勢を明確にするとの見方だ。
 戦争宣言は回避されたとはいえ、侵攻継続の意思は鮮明になり、早期停戦は見通せなくなった。専門家からは、戦争は半年は続くとする見方が出ている。そうなれば被害はさらに拡大してしまう。
 ウクライナのゼレンスキー大統領は「占領者をわれわれの領土から追い出す」と述べ、徹底抗戦の構えを崩していない。停戦への道を探る各国の努力が一段と重要になる。
 ロシアは士気の低下も指摘される兵力の立て直しとともに、侵攻継続への世論形成を進めるだろう。情報統制を強める当局は、戦争や侵攻の表現を偽情報と位置付けていた。サイバー空間での情報戦には今後も各国は警戒が必要だ。
 プーチン氏は演説で、「ロシアは伝統的価値や全ての民族、文化に敬意を払う」とも言及している。ならばその姿勢を実践することだ。人道危機を回避しなければロシアに対して敬意が払われはしない。

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