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2024.05.03 05:00

【憲法記念日】危ういなし崩しの変容

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 日本国憲法はきょう、施行から77年を迎えた。 
 戦後日本は憲法の理念を礎とした「平和国家」を掲げてきた。ところが、現政権下では岸田文雄首相の信念や哲学が伝わらず、国民的な議論や合意も欠いたまま安全保障政策の転換が続く。国の在り方がなし崩し的に変容していることを危惧する。
 一昨年末、政府は安全保障関連3文書を閣議決定によって改定した。専守防衛を形骸化させかねない反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有や、歴代内閣の方針を覆した防衛費の国内総生産(GDP)比2%への増額が正式方針になった。
 岸田首相は先月、米連邦議会で演説し、「日米同盟を強固なものにするために先頭に立って取り組んできた」と誇示している。
 だが、相手領内を攻撃する行為が専守防衛の範囲内といえるのか、周辺国を刺激し際限のない軍拡競争に陥らないか、といった懸念は拭えていない。防衛費の財源となる増税の開始時期の決定が先送りされ、不透明な状態が続くのも、国内の疑問が根強い証左だろう。
 今年3月には英国、イタリアと共同開発し、高い殺傷能力を持つ次期戦闘機の第三国輸出を解禁する方針を閣議決定した。現に戦闘が行われている国には輸出しないなどの歯止め策は設けたが、輸出先が将来、戦闘国になる危険性は否定できず、紛争を助長する不安は募る。
 日本は憲法が掲げる「平和主義」の精神を踏まえ、かつて武器輸出三原則に基づき事実上の全面禁輸を基本方針としてきた。
 しかし、2014年に安倍内閣が防衛装備移転三原則を新たに閣議決定。従来の禁輸政策を撤廃した。岸田内閣もこの流れを踏襲。22年末の新たな国家安全保障戦略で「防衛装備移転の推進」を明記している。
 批判されるべきは近年、ことごとく閣議決定によって歴代政権が堅持してきた安保政策の方針転換が続いていることではないか。国民の代表が集う国会での議論を避ける政策決定は、国民を置き去りにすることに等しい「あしき慣行」である。
 岸田首相は今通常国会の施政方針演説で、自身の自民党総裁任期が切れる9月までの憲法改正実現に意欲を示した。総裁選再選を見据え、改憲に関心が高い保守層をつなぎとめる狙いという見方が強い。
 むろん、憲法の論点は多様化している。事実上、首相の専権事項とされ、政権の自己都合が目立っている衆院解散権の制約や、本県も当事者である参院選挙区の「合区」解消を改憲で行うかどうかといった、時代の要請に応じた議論は必要だろう。
 ただ、共同通信の世論調査では改憲の国会論議は「急ぐ必要はない」が65%を占める。改憲の進め方も「慎重な政党も含めた幅広い合意形成を優先するべきだ」が72%に上った。世論は拙速な手法ではなく、幅広い合意形成を求めている。
 岸田政権による平和国家の変容と同様、憲法論議も国民を置き去りにしたやり方は許されない。

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