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2023.06.14 08:00

【強制不妊報告書】謝罪と救済につなげよ

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 国策による深刻な人権侵害の一端が改めて浮き彫りになった。差別のない社会に向けた教訓とするとともに、早急な謝罪と救済につなげなければならない。
 旧優生保護法下で、障害や疾患のある人らが不妊手術を強いられた問題を巡り、衆参両院の事務局は、立法の経緯や被害実態に関する調査報告書の原案を両院に提出した。近く全文が公表される。
 1948年施行の旧法は優生思想に基づき、知的障害や遺伝性疾患を絶やすためとして身体拘束や麻酔のほか、強制的に不妊手術を受けさせることまで認めていた。
 これら障害者差別の条文は、母体保護法へと改正される96年まで削除されずに残っていた。国の統計などから確認できるだけで約2万5千人、本県でも173人が強制不妊の被害に遭ったとみられる。
 被害者に一律320万円の一時金を支給する救済法が2019年、議員立法で成立。同法に基づき、国や自治体、医療機関が保管する資料などの分析を進めていた。
 先行して公表された報告書の概要版からは「戦後最悪の人権侵害」がゆがんだ思想とずさんな仕組みで引き起こされた実態が浮かぶ。
 旧法は戦後間もなく、食糧難を背景に人口抑制策として成立した側面も指摘されるが、国会審議で「批判的な観点から議論がなされた形跡はなかった」とする。混乱期とはいえ、社会の強い差別意識が優生思想の国策化につながっていったのは確かだろう。
 実施段階でも福祉施設の入所条件だったり、経済状況から育児困難と判断されたりして、官民が一体となって強制不妊を後押ししていた。
 被害者アンケートでは40人中27人が不妊手術との説明さえ受けていなかった。本人の同意がない場合、強制手術は都道府県の審査会による決定が必要だったが、定足数を欠いた会議や書類の持ち回りで審査された事例も判明。実際の手術では子宮摘出など、法律で認められた以上に非人道的な手法も行われていた。
 こうした実態は、法律が差別の根拠となった場合、この社会がいかに理性を失いやすいかを示しているといわざるを得ない。近く公表される報告書全文やさらなる調査を通じ、悲劇を繰り返さない戒めとする必要がある。
 非人道的な法律を制定し、人権侵害を長年放置した国会が調査した意味は大きいとしても、人間としての尊厳を傷つけられた被害者の「救済」は不十分なままだ。
 救済法の前文に盛り込まれた「反省とおわび」の主語は「われわれ」で、責任の所在さえ曖昧だ。一時金の額は被害の深刻さに見合わず、受け取った被害者もごく一部にとどまっている。
 国は国会でおわびを繰り返す一方で、被害者が賠償を求めた裁判では今も対決姿勢を崩していない。被害者は高齢化し、時間的猶予もない。責任を明確にした上で、全面的な救済へ政治的な対応が求められる。

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