2023.01.17 08:00
【山上容疑者起訴】事件の背景掘り下げよ
半年近くに及ぶ精神鑑定を踏まえ地検は刑事責任能力があると判断した。首相経験者が衆人環視の下で凶弾に倒れた衝撃的な事件は、ようやく真相究明の場が法廷に移る。
事件をきっかけに、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の高額献金や、教団と政治の接点、「宗教2世」の人権侵害などさまざまな問題が明らかになり、社会に重大な影響を与えている。裁判では、背景を含めた全容を徹底的に解き明かしていく必要がある。
山上被告は、1991年ごろに教団に入信した母親が多額の献金を繰り返し、生活が困窮した。教団を恨み、関係があった安倍氏を狙った、との供述をしている。
問答無用の銃殺は、どんな理由があっても許されるものではない。それが大前提だ。であるからこそ、山上被告が凶行に至った経緯や動機を掘り下げる必要があろう。
安倍氏を狙った理由には、韓国から教団を招き入れた岸信介元首相の孫だったことが挙がる。「飛躍している」との指摘もあるが、追い詰められた感覚は本人しか分からない。被告からしっかり言葉を引き出してもらいたい。
宗教2世の厳しい生い立ちには同情論もある。だが、凶行を正当化してはいけない。切り分けて考えるべきだ。宗教2世に対する社会的な支援に関しては、裁判でも課題として提起されることだろう。それを今後に生かしていくことだ。
政府、与野党は、裁判は裁判として推移を注視しつつ、事件で顕在化した問題への対応を緩めてはいけない。
高額献金で苦しむ被害者がいることを受け、不当な寄付勧誘を規制する被害者救済法が施行された。ただ、実効性の面で課題が指摘されている。不備があれば速やかに応じていく必要がある。
教団に対しては、解散命令請求を視野に、文化庁が宗教法人法に基づく質問権を行使した。法令違反案件の悪質性、継続性などが調べられているという。初の行使であり、憲法の定める「信教の自由」との兼ね合いも焦点になる。命令請求に至るかは見通せないが、いずれの判断にせよ説得力のある説明が求められる。
今回の事件で、自民党を中心に教団と政治の関係が浮上した。
自民の自己調査では、教団と何らかの接点があった党国会議員は180人に上る。教団の献金集めに政治が利用されたかもしれない。教団によって掲げる政策が影響を受けた疑いも残る。
中でも、銃撃の標的になった安倍氏は、細田博之衆院議長と並んで、組織票の差配など中心的な役割を果たしていた可能性が指摘されている。しかし岸田文雄首相は調査に消極的だ。姿勢を改めなければ、国民の政治不信は払拭できない。