2024年 06月01日(土)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

高知新聞PLUSの活用法

2023.01.14 08:00

【新田園都市構想】看板掛け替えではだめだ

SHARE

 岸田政権が地方対策の柱に掲げる「デジタル田園都市国家構想」で、向こう5年間の指針となる総合戦略が打ち出された。
 戦略は、遠隔医療や自動運転などデジタル技術の普及により「全国どこでも便利で快適に暮らせる社会」をつくるとする。大きな目標には、東京圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)と、それ以外の転出入を2027年度に均衡させるとした。
 デジタル技術が、生活の利便性向上や距離のハンディキャップ解消に結び付く可能性があるのは事実だろう。だが、新戦略の主だった施策の方向感は、「異次元の政策」との触れ込みで2014年に始めたものの成果が上がっていない「地方創生」の枠を出ていない。
 実効性、成果にこだわる強い姿勢や仕掛けが必要だ。それがなければ単なる焼き直しであり、「統一地方選対策の単なる看板の掛け替え」との評価を免れない。デジタル普及は、あくまで手段であって目的ではないとの意識も徹底したい。
 新戦略は、地方移住を促す国の支援金の拡充▽サテライトオフィス整備などによる「転職なき移住」の増加▽企業の地方移転促進―などを盛り込む。既視感は否めないが、これらを通じて近年の実績を大きく上回る「地方移住年間1万人」「地方での起業年間千件」などを掲げる。
 デジタル化の進展が移住のハードルを下げる面はあろう。ただ、地方側のデジタル基盤の整備も必要であり、そのための人材やノウハウ不足も指摘されている。戦略は人材育成策を盛り込むが、人口減少が加速する小規模自治体などは悠長に基盤づくりをする余裕はない。取り組みのスピード感も重要だ。
 東京一極集中の是正を巡っては、安倍政権が14年に策定した地方創生総合戦略で本格化した。当時は、東京圏への転入超過解消を20年に実現するとの目標を掲げていた。
 しかし、新型コロナウイルス禍でリモートワークが浸透するなどしても、転入超過は解消せず、21年は超過が8万人を超えた。政府は「20年」とした解消目標を24年度に先送りした経緯があり、今回の「27年度」は2度目の先送りと言える。
 新戦略の策定に際し、目標を達成できなかった要因や背景をきちんと検証できているのだろうか。
 地方創生のスタート時、国は地方側にも戦略策定を求めた。地方は自分たちで将来像を考える好機にはなったが、施策展開は国が色濃く関与する中央集権的な形であり、地域の主体性が発揮されにくかった。
 財政的な支援も初年度以降は尻すぼみになり、地方側が意欲を失ってしまった部分がある。
 省庁の移転も掲げたが、全面移転は文化庁の京都移転にとどまり、企業の移転も大きな流れにはならなかった。「脱東京」の価値観をつくることができなかった。
 こうした反省を生かさなければならない。地方側ももちろん、国に頼り切りではなく、主体的に臨む姿勢が求められる。

高知のニュース 社説

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月