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高知新聞PLUSの活用法

2022.06.20 08:00

【AV救済法成立】まだ残された課題がある

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 アダルトビデオ(AV)の出演被害を防ぎ、出演者を救済するための新法が成立した。出演者が年齢や性別を問わず、後から契約を解除できる権利などが盛り込まれた。
 出演者保護のこれまでにない制度だ。若者が自ら命を絶つ事態も招いてきた望まない出演。被害がなくなるよう強く望みたい。
 法制度化のきっかけは今春、成人年齢が引き下げられたことだった。18、19歳が後から契約を取り消せる「未成年者取り消し権」の対象外となり、AVの出演被害が増えるのではないかと懸念された。
 これに対し超党派の国会議員が議員立法による早期の救済法確立を目指し、4月から論議を開始。1カ月後には条文案が公表され、通常国会最終日の今月15日に可決した。
 新法では、出演者が撮影内容や映像公表によるリスクを熟慮できるよう、出演契約の成立から撮影までは1カ月、撮影から公表までは4カ月を置くことを義務付けた。映像公表後も、1年間(法施行後2年は2年間)は無条件で契約を解除できるとした。
 制作側は出演者に対し、撮影で求められる性行為の内容を分かりやすく書面などで説明する必要がある。出演者から契約を解除された場合は映像の削除や回収の義務を負い、損害賠償も請求できない。
 罰則を設けた意味も大きい。制作側が虚偽の説明や威迫行為をした場合は懲役や罰金を科す。
 近年、インターネットを使った映像の配信が進み、AV作品が大量に流通するようになった。その裏で、若者らが意に沿わない形で出演させられたり、貧困や虐待から逃れようと出演したりする例が問題になってきた。
 出演者が十分な知識や交渉力を持たない一方で、制作側が巧みに出演を誘導。出演者が泣き寝入りしてきた例も多いようだ。そんな中で、遅きに失した感はあるが、救済法が成立したことは評価できる。
 ただし、立法化を急いだ影響で、議論が尽くされたかといえば疑問は残る。
 新法は、映像化する「性行為」に性交が含まれると明記した。AV制作では出演者に金銭が支払われる。「売春防止法が禁止する性交を事実上合法化するのではないか」との声が上がったのも無理はない。「撮影時の性交を禁止すべきだ」との意見も根強い。
 国会審議では法律の早期成立を優先し、こうした課題の検討は進まなかった。そのため新法には、施行後2年以内に検討を加え、必要な措置を講ずることが明記された。
 新法が国や自治体に求めた相談体制の整備も着実に進めなければならない。法の中身が周知されることも必要になる。
 AVの出演被害は出演者の人生に大きく影響する。法をつくるだけではそれを防止できない。残された課題について国会はもちろん、行政や社会も議論や検証を進めなければならない。

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