2022.03.10 08:40
89歳「清掃のプロ」、惜しまれ引退 高知市の下村さん「なごう働けて幸せ」
リタイア後、自宅の玄関を掃く下村智子さん。「うずうずしゆうよ」(高知市神田)
下村さんは若い頃からホテル清掃などに従事。1990年、友人に誘われて57歳で入社した。派遣されたビルでの丁寧な作業が認められ、2003年からは現場責任者として、シフト管理や新人指導を任されるようになった。
週6日勤務。毎朝4時に起き、6時には出社する。近年は自社の入る9階建てオフィスビルを担当し、数人の同僚とともに全フロアに掃除機をかけ、モップでふき、トイレも階段もくまなく磨く。
従業員にはベトナムの技能実習生も。言葉が通じないときは身ぶり手ぶりと、清掃器具を何度も動かして手本を見せ、根気強く教えた。
「早う終われるように段取りを考えるのは楽しい。そりゃ若い子と働けたら元気をもらえるわね。しんどいとか、辞めたいと思ったことはないね」
ただ、元々腰痛を抱えていた。昨年11月から悪化し、2カ月休んだ。就職して初めてのことだった。「もう数えで90歳。そろそろえいがやない?」。同居の息子(65)からそう諭された。
現役時代、高圧洗浄機で清掃する下村さん(2014年10月、高知市内)
同社は1980年代から、高齢化社会を見据えて65歳の定年後も正社員として働ける環境を整えてきた。今も550人いる従業員の4分の1が定年を超しており、このうち半数は70歳以上だ。
「下村さんは特に清掃へのこだわりが強かった」と2代目社長の山崎真人社長(51)が惜しむ。「厳しいこともパンパン言うけど、慕われていた。清掃のプロ。皆の心の支えだった」
もっとも当人は「別に掃除が好きなわけじゃない。仕事やき」。リタイア後の今は「うずうずと変な感じ」を抱えながら、自宅で掃除や洗濯、買い物をてきぱきこなしている。
現役世代に向けて、「多少ズルして、楽するのが長続きのこつ。人間、真っすぐだけじゃいかんこともあるきよ」とアドバイス。くすくすっと笑った。(宮内萌子)