2021.12.09 08:00
【香南市漏えい】問われる供述依存の捜査
香南市が発注した工事を巡り、入札情報を元市議に漏えいしたとして、地検が官製談合防止法違反罪などに問われた市住宅管財課長の起訴を取り消した。
課長は一貫して否認していた。元市議は「課長から聞いた」とした逮捕時の供述を変遷させており、地検は公訴を維持できないと判断した。
それでは、漏えいに関与したのは誰なのか。真相を究明しなければならない。
この事件で逮捕、起訴された建設会社元社長から献金を受けていたとして、清藤真司市長が「道義的責任を取る」と辞職を表明するなど波紋が広がっている。
課長の起訴取り消しについて、県警は「適正な逮捕だった」としている。地検は、起訴後に分かった事実関係を踏まえ証拠を精査した結果とし「大変遺憾」とした。
だが、元市議の供述頼みで捜査が尽くされていなかったのではないか。その疑念を持たざるを得ない。
課長は市営住宅解体工事で、元市議に入札情報を伝え、建設会社元社長に落札させたとして、今年9月1日に県警に逮捕された。
同4日に弁護人による勾留取り消しの準抗告が高知地裁に認められ、課長はいったん釈放された。しかし、地検は7日後に同じ容疑で再び逮捕し、起訴していた。先月12日になり、今度は地検が勾留取り消しを請求し釈放された。
「自分が自白すれば事件が成立する。そんなストーリーが出来上がっていた」。課長は釈放後の記者会見で捜査への強い怒りを訴えた。
高知市出身の元厚生労働省事務次官、村木厚子さんが無罪になった2009年の郵便不正事件が思い起こされる。
検察側が描いたストーリーに供述調書を合わせる強引な捜査手法が冤罪(えんざい)を生んだ。無罪判決後、担当検事が証拠の改ざんで逮捕され、検察への信頼は地に落ちた。
以来、検察は「自白偏重主義」の体質からの脱却を図ってきた。しかし、同様の構図が繰り返された今回の事件を見る限り、意識改革は十分に浸透しているとは思えない。
課長は2度にわたって身柄拘束され、自白を迫られた。同じ容疑での2度の逮捕は異例である。刑事訴訟法が定める拘束期間の上限を無意味にしかねない運用とも言える。2度目を認めた地裁の判断も問われる。
日本の刑事司法では、無罪を主張する容疑者らが長く勾留されてしまう「人質司法」の問題がある。今回の件も、その側面があると指摘されても致し方ないだろう。
県警による逮捕前の任意聴取で、課長は拘束が18時間に及んだ日もあったという。これらの点も問題がなかったか、検証する必要がある。
課長が受けた名誉や精神への打撃は甚大である。県警、地検は謝罪していないが、適切に対応すべきだ。