2020.06.12 08:38
虚ろな税 奈半利事件の実相(5)町長 格差にあらがいたい
4期16年の任期が満了する6月で引退することを決めていた。議会に提出した自身最後の当初予算案。斉藤は「念願だった」という事業を盛り込み、10人の議員に意義を説いた。
それは町の子どものための給付型奨学金の拡充だった。高校卒業後に進学する子どもが誰でも使えるように、税の滞納世帯も対象に含め、将来は町に戻るといった条件もない。
例えば、四年制大学に進めば、入学時の25万円と年30万円の計145万円を返済不要で給付する。それまで国立大に限定していた制度を私立大や短大、専門学校にも広げ、1億7500万円の町費を基金に注いだ。
奈半利町に中学校は1校。高校はない。子どもが成長とともに町を出る姿を見続けた斉藤が「役場人生の集大成」と位置付けた人づくり事業。それを可能にしたのが、2017年度に全国9位、39億円に上ったふるさと納税の寄付金だった。
斉藤は奨学金拡充の前後、周囲に繰り返しこう訴えていた。
「あしは、ふるさと納税を使って、奈半利から格差社会にあらがいたいがよ」…