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2021.03.24 08:39

高知県の中学7割で教員が専門外授業 美術、技術、家庭…

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美術の指導をする国語教員。専門外授業は高知県内中学校の約7割で行われている(土佐町宮古野の土佐町中)

小規模校の教員不足 高知県教委「解消難しい」
 中学校の理科教員が技術も教え、音楽教員が美術も教える―。

 そんな専門外指導の解消を高知県に求める意見書が安芸郡芸西村、土佐郡土佐町、幡多郡大月町の3月議会で相次いで可決された。高知県内公立中学校のおよそ7割で、一部授業の専門外指導が行われているが、県教委は「解消は難しい」という。義務教育の場で、なぜ。

 「形や色を工夫してリアルに作って」

 3月中旬の土佐町中学校の美術室。国語が専門の男性の臨時教員が、2年生23人にフルーツタルトや和菓子の粘土細工を教えていた。

 土佐町中学校では専門外の教員が、美術、技術の授業を受け持つ。「生徒から専門的な質問を受けても、その場で答えられず、持ち帰って翌日に回答することはよくある。生徒の興味や意欲をそぎかねない」と谷内宣夫校長。高知県教育委員会に解消を要望しても「『国が動かんとどうしようもない』と、いつも同じ答え」と嘆息する。

 中学の授業は、英数国理社の「五教科」と技能系の体育、音楽、美術、技術、家庭の計10科目。一方、中学教員の定数(校長を除く)は1学年1学級規模で8人、2学級10人、3学級15人…。全国的に、人件費を交付する国の標準例に沿った数となっている。

 では教員8人の小規模校で、10教科を教えるにはどうするか。

 ここで専門外指導を行う教員の必要性が出てくる。実際、中山間地域を多く抱える高知県では2020年度、108校中74校が1学年1学級の小規模校。専門外指導は正教員168人(技術60人、家庭58人、美術41人など)、臨時教員25人が行う。

 四国他県はどうか。

 徳島県は全82校中63校、213人の正教員が専門外指導。担当者は「多くが1市町村に1中学。中山間だけでなく平地も生徒が減り、1学年2学級は維持できない」。

 香川県の小規模対策の専門外指導は全67校中12校、23人。担当者によると、平野が狭く学校同士が近かったため、「平成の大合併以降、学校統合も進んだ。離島などを除き1学年2学級以上」となっており、ほぼ解消されているという。愛媛県は「非公表」とした。

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 3月中旬の高知県議会総務委員会。県議の一人が、高知県教育委員会に「(専門外指導の)計画的な解消を」と迫る場面があった。伊藤博明教育長は「約束できない」と後ろ向きな答えを繰り返し、抜本的な解決法は「(学級数を増やす)学校統合しか…」。地域の活力を奪いかねない言葉を持ち出したところで、慌てて県議が「次元が違う!」。議論は深まらず、質疑を終えた。

 高知県教育委員会は専門指導の実現に、教員の複数校兼務も試行する。ただ、教員が市町村をまたいで足を延ばさねばならないケースもあり、「教員の負担が大きい。担任も持てなくなるし、教員のモチベーションが下がる」。取り組みは広がっていない。

 もちろん、少人数学級化や学力向上支援などとして県予算で加配する教員を美術や技術に振り替えたり、県が技能系教員の新規採用を増やしたりする方法がないわけではない。

 だが、高知県教育委員会は「加配の振り替えは県民の理解が得られないと思う」「(不足の人数を採用するなら)年間ざっと10億円以上が必要」とし、「そもそも美術などの教員はなり手が少なく、大量採用も難しい」という。

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 冒頭の土佐町中学校。国語の臨時教員による美術の授業を受けた生徒からは「楽しい」「こんな細かい指導してくれる先生は初めて」と好意的な声が聞かれた。ただ、当の教員は「研修や指導書で研究し、最低限はこなせたと思うけど、不安だらけでした。やっぱり専門の先生が教える方がいいと思う」。

 教育の充実という理想と、国の制度の間で揺れる学校現場。土佐町の吉村雅愛(まさはる)教育長は「県に要望を続ける」としつつ、「町単独での教員確保や専門知識を持つ支援員の配置も考えたい」としている。(宮崎順一、竹内将史)

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