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2020.01.21 08:33

【地震新聞】災害時の授乳どう支援? 足りない福祉避難所

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「安心して授乳できる環境をキープすることが重要」と話す奥起久子さん(高知市の県民文化ホール)

東京北医療センター・奥医師(安芸市出身)が講演

母乳・安心できる場所確保を/人工乳・衛生面での配慮が必要
 南海トラフ地震などの大規模災害時、要配慮者への支援強化が求められている。高齢者や障害のある人に焦点が当たることが多いが、妊婦や乳児とその母親らへの支援も欠かせない。今回は東京北医療センターの小児科医、奥起久子さん(74)=安芸市出身=が高知市で行った講演で災害時の乳児栄養支援について考える。

□免疫物質
 平時を含め赤ちゃんに一番推奨されるのは母乳。母乳は赤ちゃんを感染から守る免疫物質を含み、インフラが遮断された状況でも衛生的に授乳できる。

 医療レベルがダウンすると、腸管感染症や呼吸器感染症などが高齢者や赤ちゃんの命取りになりうる。母乳で育てている母親には、母乳を継続できる支援をすることが重要だ。

 避難所でおにぎりなどしか食べられず、栄養のある母乳が出るのか心配する人もいる。乳汁(にゅうじゅう)は主に体に蓄積された栄養で作られるので、成分や量は急には変わらない。

 「ストレスで母乳が出なくなるのでは」という心配も聞く。確かに母乳を押し出すホルモン、オキシトシンはストレス下で分泌されにくくなることがあるが、母乳を作るホルモン、プロラクチンは影響を受けないので心配ない。安心して授乳できる場所で頻繁に授乳することが大切だ。

□粉と液体の違い
 人工乳の話に移りたい。発災直後は衛生環境が悪化したり、保健医療ケアのシステムがダウンしたりする。普段、粉ミルクや液体ミルクで育てている赤ちゃんには最大の支援が必要になる。

 米国疾病予防管理センターが出したガイドラインは、特に免疫機能が弱い生後3カ月以内の赤ちゃんらに粉ミルクより液体ミルクを薦めている。

 液体ミルクは滅菌されており常温保存可能。そのまま飲める。凍結、高温、電子レンジはだめで、飲み残しは廃棄、アレルギー対応は今のところないというのが特徴。

 一方、粉ミルクは滅菌するため70度以上の湯で溶く必要がある。保存期間が長く、重量は軽い。安価。それぞれに特徴がある。

 粉ミルク、液体ミルクとも飲ませるには道具が必要。哺乳瓶は衛生的な管理が難しく、きれいに洗うには1回につき水が約1・9リットル必要といわれる。使い捨て哺乳瓶も流通しているが、備蓄にはコストがかかる。

 例えば、「液体ミルク+使い捨て哺乳瓶」だと、1人・1日当たり約4千円かかる。液体ミルクに比べて使い捨て哺乳瓶の備蓄数が少なければ使い回しするリスクが上がり、衛生面で危険。

イラスト・岡崎紗和

 哺乳瓶を清潔に管理できない状況では、国際ガイドラインでコップを使った授乳が推奨されている。「粉ミルク+コップ」では1人・1日の費用が約400円で済む。

 コップでの授乳は昔から新生児集中治療室(NICU)で哺乳力の弱い赤ちゃんに使われるなど安全性が確立している。紙コップや小さい茶わんなども使える。こぼれやすいかもしれないが、呼吸も調整しやすく、普段母乳を与えている人が一時的に使う時も有効だ。

□一律配布は危険
 2018年に豪雨災害を受けた岡山県倉敷市や北海道地震の被災地に、東京都が液体ミルクを寄付したが活用されなかった―というニュースが流れた。ネットなどで「好意が無駄になった」と書かれたが、ばらまけばよかったのか?

 もし一律に配布すると、それまで母乳を飲んでいた赤ちゃんにも使用され、赤ちゃんが感染症にかかる可能性が高まる。その結果、被災した集団の感染率を上げることにつながりかねない。

 災害時の支援は、普段母乳か人工乳かという栄養法によって異なる。母乳や混合(母乳と人工ミルク)の場合は継続できる支援が必要。普段から母乳で育てる子どもが多いほど、人工乳の赤ちゃんに資源を集中して手厚く支援できる。

 (講演会は「高知母乳育児支援を学ぶ会」主催。県内外の助産師、保健師ら約100人が参加した)


足りない福祉避難所 液体ミルク導入進む 県内の態勢は?
 赤ちゃんの泣き声が迷惑になるのでは。周りの目が気になり授乳しづらい―。東日本大震災や熊本地震では、赤ちゃん連れの母親らが避難所で肩身の狭い思いをしたり、車中泊をしたために十分な支援を受けられなかったりといった課題が浮き彫りになった。

 そうした教訓から、妊産婦や新生児が避難生活を送る場所として福祉避難所(要配慮者を対象にした避難所)の指定が進んでおり、京都市、東京都文京区など県外では妊産婦と新生児に特化した避難所を整備する動きもある。ただ、高知県内ではまだ十分ではない。

 現在、高知県内に220カ所ある福祉避難所の多くは高齢者施設。高知県地域福祉政策課は「ミルクやおむつの備蓄があるなどの利点があり、周りも赤ちゃん連れが多いと気兼ねなく過ごせるのでは」として、地域の保育所を福祉避難所に活用するよう市町村に働き掛けているが、土佐市12カ所、室戸市1カ所などと少ない。

 昨年販売が始まった液体ミルクは湯を沸かす必要がなく、哺乳瓶やコップに移してそのまま授乳できるのが利点。高知県内では南国市、土佐清水市などが粉ミルクの備蓄に加えて導入している。高知市は現在、想定される避難者数を基に1日分の粉ミルクと使い捨て哺乳瓶を備蓄しており、液体ミルクも今後取り入れる方針だ。

《備防録》「避難所は無理」と敬遠?
 奥医師の講演会では、質疑の時間に岡山県から参加した助産師が西日本豪雨の経験を話した。発災後、母子支援のために避難所に出向いたが、乳児を抱えた母親は一人もいなかったという。

 災害のたびに、大勢の被災者が体育館で雑魚寝する映像を目にする。赤ちゃんを抱えた親が「避難所は無理」と避けたとしても不思議ではない。結果的に食料や紙おむつ、ミルクの配布、専門家のケアなどを受けられず苦労した家庭も少なくなかったのではと思う。

 もし今、高知で災害が起きたら。一般の避難所も福祉避難所も足りない中で、母乳で育てている母子をどう支援するのか、人工ミルクの備えは機能するのか…。災害弱者も生き延びられる対策を求めたい。(松田さやか)

生き埋めになった被災者の救助訓練に臨む秦地区の住民(高知市秦南町1丁目の北消防署)

《防災最前線》秦地区自主防災組織連絡協議会(高知市) 住民の自助力向上を
 昨年12月、高知市秦南町1丁目の北消防署で、秦地区の住民約20人が災害時を想定した救助訓練に参加した。バールを手に重さ1・6トンのコンクリート片をてこの原理で浮かせ、被災者が下敷きになったことを想定した人形を運び出した。

 秦地区自主防災組織連絡協議会は昨年8~12月の間に計8回、住民を対象に研修会を開催した。12月の研修会では、消防署員の指導でビニール袋など身の回りの物を活用した止血や骨折の応急手当てを学んだ。

 秦地区はイオンモール高知がある高知市の北部で約1万7千人が暮らす。北消防署を含む地区の南部は最大で2メートルの浸水、急傾斜地の多い北部は揺れによる土砂災害が懸念される地域だ。

 災害時、北消防署は火災や人命救助の対応に忙殺される。隣接する高知赤十字病院も、県内各地から搬送される重傷者の対応に追われることが想定されている。

 「地震後は消防や行政の支援は期待できない。軽傷者の手当てなどは住民自身で行うなど、自助や共助の力を高めないといけない」。同協議会の中越敏郎会長(76)は研修会の狙いをそう話す。

 津波で浸水する市南部から被災者が避難してくることも想定される。中越会長は「秦地区外からの被災者の受け入れも必要になるだろう。地区内で避難者が極力出ないように、今後は若い世代の力も借りながら、家の耐震化や家具固定なども呼び掛けていきたい」と話している。(海路佳孝)

そな得る(13)自主防の活性化不可欠
 南海トラフ地震などの大規模災害が発生した時、地域の防災活動の核となるのが自主防災組織だ。町内会などの単位で住民が集まり訓練や勉強会を行っており、災害が起きれば避難の手助けや避難所運営などの「共助」を担う。

 自主防が注目されるようになったのは1995年の阪神・淡路大震災から。倒壊した家屋や家具の下敷きになった人のうち6割以上が、家族や地域住民、通行人による共助で救出された。

 それ以降、各地で自主防の結成が進んだ。高知市では98年の「’98高知豪雨」を機に、市が自主防の育成・強化を進める方針を打ち出し、補助金を拡充したことも追い風となった。

 2002年4月に19・8%だった県内の組織率(自主防ができた地域の世帯数が全世帯数に占める割合)は、南海トラフ地震への危機意識の高まりと共にアップ。08年4月に5割を超え、11年3月の東日本大震災以降はさらに加速し、19年4月時点で2898組織、96・5%となった。34市町村のうち19市町村は100%を達成している。

 ただ、自主防結成済みの地域にある全ての世帯が自主防に入っているわけではなく、参加者の減少やメンバーの高齢化、活動のマンネリ化に悩む自主防は少なくない。

 そんな中でも要配慮者の支援なども含め、自主防の存在感は増している。県は21年度に組織率を100%とする目標を掲げるとともに、補助金や助言を通して活性化を図ることにしている。

 自分が暮らす地域に自主防があるかや、どうやって加入するかは市町村の防災担当部署に連絡すれば教えてもらえる。

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