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2019.12.21 08:30

【地震新聞】高知市の堤防整備「宝永級」に対応 浦戸湾口狭め流入量抑制

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 南海トラフ地震の津波に備え、高知県内の沿岸では堤防や防波堤の整備が進んでいる。補強やかさ上げによる減災効果が期待される一方、整備する堤防の高さなどで、行政と住民間で議論が続いている地域もある。国や県が進める堤防整備の考え方や対策の現状をまとめた。

防波堤の整備が予定されている高知市の浦戸湾口(2015年2月撮影)

高知市の三重防護
 県港湾・海岸課によると、高知県の海岸の総延長は713キロ。このうち堤防が整備されているのは、県と市町村の管理分を合わせ約220キロになる。

 戦後の堤防整備は1959(昭和34)年の伊勢湾台風や61(同36)年の第2室戸台風、70(同45)年の台風10号などをきっかけに、台風などの高波対策をメインに進めてきた。

 この堤防整備の考え方を変えたのが、多くの堤防をなぎ倒し、甚大な浸水被害をもた
した東日本大震災だった。

 県は堤防を整備する際の基準として、「設計津波」を設けることにした。設計津波とは、最大クラス(レベル2)より発生頻度が高いマグニチュード8・6の宝永地震クラス(レベル1)の地震で想定される津波水位のこと。つまり、レベル1クラスの津波に対応できる堤防高にしようということだ。

 県は2013年、県内の海岸線を59区域に分け、区域ごとに設計津波の水位を設定。実際の堤防と比較すると、設計津波の高さを満たしていない堤防が74%に上った。高潮対策が進んできた県東部は24%だったが、地震で地盤沈降が起きる中部は88%、リアス式海岸が多く湾奥での津波が高くなる西部は96%に及んだ。

 ■  ■ 

 県内の沿岸で設計津波を踏まえた堤防整備が進んでいる場所の一つが、高知市の浦戸湾周辺の「三重防護」だ。

 三重防護に向けた有識者検討会のシミュレーションによると、何も対策しなければ、国が想定するレベル2の津波が襲来した場合、浦戸湾周辺の浸水面積は3300ヘクタール、レベル1の場合でも1600ヘクタールに及ぶ。

 これを低減するのが三重防護で、(1)高知市仁井田の沖合に設置されている防波堤(2)種崎や浦戸などの湾口部の堤防(3)湾内の堤防―の順に食い止める。

 沖合防波堤を除き、沿岸堤防の整備延長は約29キロ。堤防に鋼管杭(くい)を地下深く打ち込むなどして耐震化や液状化対策を施す「粘り強い」構造を採用している。

 レベル2の地震で津波が堤防を越えたとしても、住民が高台に避難するまでの時間を稼ぎ、ポンプなどの排水で市街地の長期浸水を早期に解消させる。

 ■  ■ 

 湾内への津波流入を低減させる効果として期待されるのが、湾口部の両岸に新たに設置が予定されている津波防波堤だ。湾口の航路幅(170メートル)を確保した上で、湾口北側の種崎、南側の浦戸の両岸に堤防を整備し、湾の“口”を狭めることで津波流入量を減らす。

 国土交通省四国地方整備局が設置している検討会では現在、周辺の津波の流速などを基に防波堤の構造などを検討。同局高知港湾・空港整備事務所は「湾口部に防波堤を設置することで湾内の堤防のかさ上げを設計津波より低く抑えることができ、整備の効率化につながる」とする。

 有識者検討会のシミュレーションによると、対策を講じなかった場合、高さ30センチの津波が湾の奥にある鏡川河口付近に到達する時間は30~40分。対策後は到達を90分遅らせる効果があると見込んでいる。

 三重防護の整備工事は現在、高知新港周辺や潮江地区で進行中。総事業費は約600億円で、2031年度の完了を目指している。

宿毛市の松田川大橋北詰めで進む堤防工事(同市沖新田)

宿毛 満潮位基にかさ上げ 越流対策 長期浸水に備え
 東日本大震災を契機に県内の沿岸では、堤防のかさ上げや補強が進められている。

 土佐市―南国市間の高知海岸(約13・3キロ)▽土佐市の宇佐漁港海岸(約5・8キロ)▽安芸郡奈半利町の奈半利港海岸(約900メートル)▽須崎市の須崎港防波堤▽宿毛市の宿毛湾港の防波堤―。

 このうちの一つ、宿毛市の市街地周辺(約7・3キロ)では、防災と日々の生活の折り合いを付けながら堤防整備を続けている。

 同市周辺は南海トラフ地震で地盤が最大2・4メートル沈降するとされ、津波で流入した海水が排水できない状態が続く長期浸水が懸念されている。

 県港湾・海岸課によると、宿毛湾内にある従来の堤防の高さは約3メートル(東京湾内の平均海面を基準高としたときの高さ)。これに対し、この区域の設計津波の水位は6・4メートル(同)。これに合わせたかさ上げを行おうとすると、現状より倍以上の高さにしなければならない。

 「堤防のすぐ近くに家がある住民も多い。そこまでの高さにしてしまうと、日当たりの問題もあるし現実的じゃない」と話すのは沖新田地区の成田好水地区長(74)。

 そこで県は堤防を補強するとともに、現在の3メートルから3・9メートルにかさ上げする方針を示している。この高さは、地盤沈降した後に満潮時の海面が堤防を越えない高さとしてはじいた。

 これまでに地元住民や漁業者らを対象に48回の説明会を開催。現在は松田川大橋北詰めで工事が進んでいる。

 成田区長はかさ上げ高に理解を示しつつ、「いま進んでいる工事は津波が越えてくることを前提とした堤防だ。避難場所は周辺のホテルなど民間施設しかない。市には地震後にすぐに逃げ込める津波避難タワーを整備してもらいたい」と要望している。

 事業対象区間のうち、片島地区ではかさ上げの高さなどについて合意形成に至っていない。

 地元住民は「いまは堤防越しに漁港の様子を見渡せるけど、かさ上げされると港内にいる子どもや漁師の姿が見えなくなり、何か事故があっても気付きにくい」と不安を口にする。

 また、市街地に入った津波が堤防のかさ上げによって排水されにくくなり、引き続き津波が押し寄せた場合に浸水域が広がってしまうのではとの懸念もあるとし、「計画ありきではなく、県には住民と一緒に整備のあり方を考えるスタンスを持ってほしい」とする。

 県港湾・海岸課は「長期浸水対応などで整備が必要な区間なので、住民の不安に対しては丁寧な説明を続けていきたい」と話している。(海路佳孝)

《備防録》効果の過信禁物
 昭和南海地震のマグニチュード(M)は8・0で、安政のM8・4、宝永のM8・6に比べて規模が小さかったとされる。

 高知市では津波が堤防を越えることはなかったが、揺れに伴う液状化で決壊し、市東部の広範囲に長期浸水をもたらした。現在進む堤防整備は、昭和の地震で起きたような決壊を防ぎ、宝永クラスの津波が市街地に浸入するのを食い止める効果が期待される。

 ただ、次に高知県を襲う津波が宝永クラスか、それ以上かを予測することはできない。東日本大震災では堤防の“安全神話”が崩れ、ハード整備の限界を突き付けた。堤防の効果を過信せず、「津波は堤防を越す」「揺れたら逃げる」意識を徹底したい。(海路佳孝)

防災倉庫の中身を点検する住民(津野町の旧郷小学校)

《防災最前線》郷地区自主防災会(津野町) 豪雨想定し初の独自訓練
 山に囲まれた高岡郡津野町には、土砂災害警戒区域にある集落が多い。郷地区(153世帯、316人)もその一つで、地区につながる国道197号、439号が土砂や倒木でふさがれると、孤立する可能性が高い。

 そこで今月1日、役場に頼らず地元だけで運営する防災訓練を初めて行った。ふだんは地区内の8エリアごとに自主防災組織をつくって災害に備えており、この日も各自主防のメンバーや住民約70人が旧郷小学校(芳生野乙)に集まった。

 訓練を指揮した郷地区活性化委員会の中越一俊さん(65)は「大災害の時は1週間ほど行政が入ってこられないだろう。消防団や民生委員、集落活動センターなどが連携して地元で対応しないと」と力を込める。

 大雨による土砂災害の発生を想定し、住民と消防団員は防災倉庫にある発電機やチェーンソーを取り出し動作を確認。倒木につぶされた民家からけが人を体育館まで搬送する訓練も行い、消防署員から心肺蘇生法の講習を受けた。

 今後はこうした実践的な訓練を年1回のペースで続けたいという。「線状降水帯がどこに出てもおかしくない。道路の寸断は想定内として、やることはやっておく」と中越さん。

 昨年の西日本豪雨や今年各地で台風被害が相次いだこともあり、町民の水害への危機感はいま高まっているという。民生委員と連携を強め、高齢世帯など支援が必要な人への安否確認を充実させる計画だ。(須崎支局・早川健)

そな得る(12)伝言ダイヤル171活用を
 大規模災害の発生時、家族や知人の安否情報を発信、確認できるのがNTT西日本、東日本が運用する「災害用伝言ダイヤル(171)」だ。

 電話で171に発信し、自分の番号、または連絡を取りたい人の番号を入力すれば安否情報を録音、再生できる。

 伝言を録音できるのは30秒以内。インターネットを使う「災害用伝言板(web171)」とも連携しており、どちらかに伝言を入れれば音声に変換され、双方で再生することも可能だ。

 NTT西日本によると、東日本大震災で2011年3月11日~8月8日に運用された利用件数は録音、再生を含めて計345万9千件に上った。

 毎月1日と15日、正月三が日、防災週間(8月30日~9月5日)、防災とボランティア週間(1月15~21日)には体験利用できる。災害時に備え、使い方を学び、家族らの電話番号を確認しておこう。

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