2009.02.11 08:00
川の外科医が行く 高知発、近自然工法の軌跡
近自然工法とは、簡単に言うと、生き物に優しい土木工法のことである。コンクリートの使用を極力避け、自然石を組み、生きた木々を植えることで構造物を仕上げる。
その中には、洪水時の激流を弱め、岸を守るシステムもあるし、生態系ピラミッドが復活する仕掛けもある。見た目も川に優しいが、生物への強い配慮を施しているのが最大の特徴だ。
この工法は一九八六(昭和六十一)年、福留さんがスイスで知り、日本に持ち込んだ。当時の建設省(現国土交通省)河川局の担当官は彼に、さらに詳しい調査を指示。それらを基に九〇年、「多自然型川づくり」という名称で全国に通達が出た。「これからの川づくりは環境に配慮する必要がある」と。
その過程でどういうわけか、「近自然」という名前は「多自然」に変えられてしまったが、日本の河川工事に革命を起こしたのだ。
しかし、残念なことに「多自然」という名前で広がった新工法の現実は、名ばかりのものが多い。その結果、行き詰まった現場から、本家の「近自然」に救いを求めてやってくる。福留さんが今、網走川に立っているのもそういう理由だ。
彼は2008年、網走に十度も出張、五十日間現地で指導にあたった。しかし、それはほんの一部である。現場は日本全国に広がり、年間の三分の一強を県外で過ごす。
高知発の素晴らしい環境土木工法。その知られざる二十三年間の軌跡を紹介する。(編集委員・掛水雅彦)
【2009年02月11日~11月18日まで連載】
新聞本紙に掲載した連載・特集のまとめ読みページです。
※文中の組織名やお名前、年齢、肩書きなどはすべて、掲載当時のものです。