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2013.05.14 08:42

緑つなぐ 転機の森林県 第1部 わが道(13) 異端児の確信(上)

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「自伐林業」の技術指導をする中嶋健造(2月、岡山県美作市)

林業、儲かるのでは
 「林業は、プロでなくてもできるんですよ」

 自ら開発した木材搬出の簡易キットを前に、無精ひげの男性が山仕事のいろはを説く。

 2月初旬、岡山県美作市で開かれた初心者向け林業研修。女性グループも参加し、地元メディアも取材に来た輪の中心に森林ボランティア団体「土佐の森・救援隊」理事長、中嶋健造(51)=吾川郡いの町=がいた。

 中嶋は今、月の半分を県外で過ごしている。全国から講演、指導依頼が相次いでいるためだ。

 掲げるのは小規模、低投資の「自伐林業」。生産性重視の林業が追求される中、その存在は異彩を放つ。


 川から山へ―。中嶋の歩みは“遡上”とも言える。

 少年時代を仁淀川沿いで過ごし、川への思い入れから、IT業界などを経て近自然工法で有名な西日本科学技術研究所(高知市)へ。川を歩くうち、濁水と林業の因果関係に興味を持ち、2002年に「土佐の森」の活動に身を投じた。

 程なく、「原点」となる体験をする。

 知人の山を間伐。市場に材を持ち込み、日に数万円の手取りを得ることが続いた。世間では声高に林業不況が言われている。「本当にそうなのか? 人に作業を任せず自分でやれば、儲(もう)かるのではないか」

 それを確かめに、所有林を自ら管理、施業する自伐林家を訪ね歩いた。彼らは予想通り、林業で生計が成り立っていた。何より、「山の手入れが行き届いていた」。

 吾川郡仁淀川町で06年から行われた木質バイオマス発電の実験からも、自伐の可能性を感じた。

 「土佐の森」は、材の供給の一翼を担う立場で同事業に参加。地元住民にアンケートすると、山林所有者の6割が「山を自分で切って収入にしたい」と回答した。買い取り単価を上乗せしたこともあったが、想像以上の材が集まった。

 自伐の方向性を確信した中嶋は同時に気づく。「こうした意欲を生かす発想と政策が、今の林業の中にはない」

 09年に会社を辞め、「自伐林業・木質バイオマスアドバイザー」として独立する。この肩書で飯が食えるか、不安はあった。だが、「今、こういうことを言う人は自分しかいないと思った」。


 「土佐の森」は、薪(まき)のバイオマス利用や、材の搬出に地域通貨券を交付する地域経済の循環システムも実践。徐々に全国各地に浸透していくが、その名を広く知らしめたのは、東日本大震災の被災地復興に取り入れられたことだ。

 岩手県大槌町の避難所で、津波で壊れた住宅のがれきを使う「薪風呂」の技術を提供したことをきっかけに、「土佐の森方式」の自伐や薪事業を地元の漁師たちが展開。この取り組みが脚光を浴びた。美作市の自伐リーダーは「岩手の活動で中嶋さんを知り、その考えに共鳴した」という。

 「自伐」は土佐の山間より―。今、これを実践する地域は全国で40を超える。(文中敬称略)

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