Let’s go o-henroad! 「お遍路ードプロジェクト」について

76日目「民宿岡田とアカショウビンのうれしいおもてなし」(2015年7月22日)

歩数 27379歩
距離 19.1km
消費カロリー 717kcal

 今日は最初に「民宿岡田」のことを書こうと思う。境目峠ダラダラ登り地獄から、手書きの「→民宿岡田こっち」看板で救い出してくれた救世主の遍路宿である。住所は徳島県三好市池田町佐野牛頭(ごず)586。ご主人の岡田明さん(86歳)の表現を借りれば、66番札所・雲辺寺を打つ「歩き遍路さんのベースキャンプ」である。
 我々が泊まった日も他に4人の歩き遍路さんがいた。全員男性で年配の人が多かったが、皆インターネットや口コミで岡田の評判を聞いて予約を入れたようであった。名物女将だった奥さんを亡くしてからは、ご主人と娘さんのふたりで民宿を切り盛りしているらしい。
 夕食のあと、雲辺寺までのルートを写真入りで説明してくれたのだが、その話しぶりが講談師のようにシャキッとしていて(竹内記者談)わかりやすい。しかもときにユーモアを混じえ、いささかも押し付けがましくない。我々お遍路さん同士の会話が盛り上がってきたと見ると、すっと引いて静かに聞き役にまわっている。遍路宿のおやじとして見事なホストぶりであった。
 歩き遍路のバイブルと言われる「四国遍路」(岩波新書)、「歩き遍路―土を踏み風に祈る」(海竜社)の著者である辰濃和男さんとも親交があるようで「歩き遍路業界」では(そういうものがあるかどうかは知らないけど)かなり有名な人らしい。
 サービスに人柄が出ているなと感じた事件があった。朝、出かけるときに靴の中に何か入っている。聞くと竹の活性炭である。消臭と吸湿効果があるので到着するとすぐ入れておくのだという。歩き遍路さんの足と靴への気配り、また、そのさりげなさが素敵だと思った。
 黒ちゃんが「あっ!」と驚いたのはご主人が「ビーパル」2003年1月号を本棚の底の方から引っ張り出してきたときだ。何度も読み返しているのだろう、かなりくたびれてページもボロボロだ。この号はビーパルが初めて四国遍路を特集した号で、編集長は私なのだ。竹内記者が「この人は元はビーパルの編集長で」と紹介したからなのだが、12年以上前の黒ちゃんの作った雑誌を大切に読み続けていてくれた。編集者としてこれほど嬉しいことはない。

 さて。雲辺寺登山のベースキャンプ、民宿岡田からのルートは予想どおり大変に厳しいものであった。標高911mの四国霊場の中で最高峰の雲辺寺までは4.5km、標高差にして700mもある。4.5kmで700m登るということはかなりの急勾配を覚悟しなくてはならない。
 その雲辺寺までの急登の山道をなんと表現したらいいのだろう。適切な言葉が浮かばない。「胸突き八丁」じゃ生ぬるい。「心臓破りの坂」では月並みだ。「有無を言わせぬ急登」あるいは「容赦のない登り」あたりならばなんとかニュアンスが伝わるか。
 「今までの遍路で一番の登りってのはどう?」と北アルプス経験者の竹内記者。「いや、一瞬たりとも休ませてくれない登りってほうが」と苦しい息の下で黒ちゃん。
 そんな苦し紛れの「言葉遊び」をしているうちに登山道が終わり、ようやく雲辺寺に続く林道に出た。ひんやりとしたヒノキの林道を歩いていると突然、遠くの方から「キョロロロロー」という独特の節まわしの鳴き声が聞こえてきた。耳をすますと確かに「キョロロロロー」と鳴いている。
 間違いない。アカショウビンの声である。そのちょっと戸惑ったような素朴な声を愛でる野鳥愛好家は多い。黒ちゃんも高知に来てから渓流で釣りをしていて2度ほど聞いたことがあるだけだ。それがこんな山の中でこんなタイミングで聞けるとは…。いつもながら、お大師さまのサプライズな演出には頭が下がる。

 四国霊場最高峰を謳う雲辺寺だが、正直期待したほどではなかった。山寺らしい古色蒼然とした修験の寺のイメージがあったのだが、目の前に現れたのは金ピカの真新しい伽藍と、境内に敷き詰められたピカピカの大理石の歩道であった。同じ山寺でも45番札所・岩屋寺の、あの息を呑むような荘厳な伽藍の佇まいとは雲泥の差がある。まことに残念である。
 しかし、今日の遍路は民宿岡田とアカショウビンのふたつの 素敵な「おもてなし」があった。それで十分じゃないかと思い直した。

 雲の上でピカピカの伽藍を仰いで一句
 〈雲辺の いただき光る 大伽藍〉

 黒笹慈幾


民宿岡田のご主人岡田明さん。86歳とは思えないシャッキリぶり。12年前の年季の入ったビーパルお遍路特集号を大切に保管してくれていた。


民宿岡田では、お遍路の泊まり客の靴の中に竹炭で作った消臭吸湿剤を入れてくれるサービスがある。


民宿岡田のご主人、岡田明さんと娘さんと一緒の記念写真。お世話になりました。


鬱蒼とした杉林の中に伸びていく遍路道。写真ではわからないがかなりの急勾配である。


雲辺寺まであと2kmあまり。急登は終わり、ひんやりとしたヒノキ林の中の林道を進む。


雲辺寺の本堂。改修されたばかりのピカピカ伽藍である。なんだかありがたみがないなあ。


本堂から大師堂に向かう道には大理石の薄い石段が美しく刻まれていた。


66番札所・雲辺寺の山門。こちらも新しい。昔の山門の姿も見てみたかった。


雲辺寺から下界の67番札所・大興寺まではロープウェイで一気に下ってそこから約10kmの歩きになる。


大興寺の少し手前で見つけたかわいらしいお遍路さん休憩所。


香川県に入ってからこのような蓮根畑があちこちに見られるようになってきた。


今日の歩きは67番札所・大興寺(別名小松尾寺)で打ち止め。立派な仁王門の中には寄木造りの金剛力士像が収まる。この力士像、高さが3.14mもあり四国霊場最大級の大きさ。


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