Let’s go o-henroad! 「お遍路ードプロジェクト」について

68日目「ひょっとしてお大師さまだったのかも」(2015年6月21日)

歩数 22075歩
距離 15.4km
消費カロリー 475kcal

 梅雨へんろの第1日は、なんとか天気が持ちそうなのでホッとした。しかし一方でなんとなく気が重いのは毎度のことながら今回も初日にハードな行程が入ってしまったからだ。
 今日は61番札所・香園寺をスタートし、ほぼ真南に向かって伸びる遍路道をたどり、香園寺奥の院経由で60番札所・横峰寺(よこみねじ)に至る10kmあまりの「逆打ち」コースである。
 距離はそれほどではないのにどこがハードかといえば、標高差である。標高883mの星が森の中腹にある横峰寺の標高は750m、香園寺は50m。じつに700mもの標高差を一気に稼がなければならないのだ。竹内記者の言葉を借りると「五台山を5つ積み上げた感じ」なのである。五台山の標高は146mだから、確かに五台山5つ分である。
 黒ちゃんは五台山の真下の高須口から竹林寺までの遍路道を2度登っている。かなり急な山道を一気に上り詰めて牧野植物園の裏側に出るルートだが、多少息は切れるがそれほど厳しい感じはなかった。「じゃあX5でどうだ」と言われて、カラダの方は「?」だったが、頭の方が「かなりきつそうだぞ、気をつけろ」と警告を発したのだ。

 ところで、「愛媛トヨタ」相談役のTさんに誘われて紛れ込んだ昨晩の「愛媛高知県人会」はメチャクチャ楽しい会だった。高知県からも黒ちゃんの知り合いがたくさん参加していて、よその家の宴会とは思えないアットホームモード、まさに土佐の「大おきゃく」そのものだった。それにしても、どこに住んでいても「おきゃく癖」が抜けない高知家の人ってほんとにスゴイと思う。

 約束の朝8時、東横インのロビーで待っていると黒塗りのトヨタの高級車がホテル前に横付けされた。愛媛高知県人会に招いてくれたTさんが昨晩、別れ際に「明日は香園寺までクルマで送るよ」と言ってくれたのだ。そこまで甘えていいのだろうかと一瞬恐縮したが、松山駅に出て予讃線で伊予小松駅まで移動するだけでも2時間弱かかる。今日の、厳しいであろう遍路のスタート時間をなるべく早くしたい我々は、ありがたくクルマのお接待を受けることにしたのだ。
 高速道経由で40分弱、スタート地点の香園寺に9時前に到着したTさんのクルマは、我々を駐車場に下ろすと風のように去っていった。「ひょっとして、Tさんはお大師さまなのかも」竹内記者がポロリと言った。

 香園寺・奥の院を経て登山道の入り口までの1時間ほどの道のりは、かなりの急勾配だったが舗装されていたので歩きやすかった。しかし、未舗装の登山道に入るといきなりものすごい急登攀が待ち構えていた。しかも、最初は赤土の整備された道だったのが、ときおり岩盤がむき出しの沢のような道に変わる。多分大雨かなにかで表土が流出して岩盤だけが残されたのだろう。雨の日の登攀でなくてよかった。大雨の後は多分、この道は本物の沢になる。
 山の斜面をジグザグに縫う急峻な遍路道は、横峰寺まで3kmを残すあたりで尾根に出た。しかし尾根道になっても勾配はあまり緩まず、厳しい登攀が続く。
 「横峰寺まであと2km」と書かれた道標を過ぎたあたりから、今までなんの文句も言ってなかった黒ちゃんの膝の関節がピリピリ言い出した。ほぼ同時に右足の太ももの外側の筋肉もブツブツ言い出した。ご機嫌が悪くなり始めた膝と太ももを、なだめつつ騙しつつ横峰寺に到着したのが午後1時前、正味4時間ほどの歩きであったが、約7kgの荷物を背負っての初日の急登攀はさすがに少々ムリがあったのかもしれない。

 標高750mの石鉄山(いしづちさん)横峰寺の境内は、厚い雲の中にあって荘厳な雰囲気に満ちていた。縁起を見ると修験道の開祖・役小角(えんのおづの)が蔵王権現を刻んで開創し、後に弘法大師が石楠花の木に大日如来を刻んで60番札所に定めたとある。
 四国八十八霊場の中では三番目の高所にある三番目の関所である。「関所」というのは、悪いことをした人、邪心を持っている人はお大師さまのおとがめを受けて、ここから先に進めなくなる場所なのだという。
 黒ちゃんは悪いこともしていないし、邪心もないので大丈夫だと思うが、明日の石鎚山登山をお大師さまは許してくれるのか、急に心配になってきた。膝と太もももの痛みが「関所」にならないといいのだが。

 横峰寺参拝を終えて、駐車場の茶店でコーヒーを飲みながら下界へ降りるタクシーを待っている時であった。鼻先をヒュッとかすめて小さな野鳥がすぐ脇の縁台に舞い降り、ひまわりの種の入ったカゴから種をひとつついばんでどこかへ消えた。
 しばらく経つとまた同じリズムで現れた。よーく観察してみると、黒い頭に白い頬、黄褐色のボディ…、ヤマガラである。ヤマガラは人に慣れやすい野鳥で、おみくじを引く芸を見せてくれたりするあの鳥である。
 茶店の女性に聞くと「手からもエサをとりますよ」という。半信半疑で種を手のひらに乗せて待っていると、間もなくやってきて0.5秒くらいだが、親指にとまって種をつまんで消えた。小さな野鳥の生命の重みが、黒ちゃんの左手の親指にずしりと残った。
 「ひょっとして、今のはお大師さまだったかもしれない」
 霧に隠れて見えない石鎚山の方角に向かって独り言をつぶやく黒ちゃんでありました。

 五台山を5つ積み上げた横峰寺参拝を終えて一句
 <横峰の ヤマガラの嘴(くち) 種ひとつ〉
黒笹慈幾


香園寺の奥の院に向かうお遍路道が松山自動車道の下をくぐる。標高差700mの急登はんがこの後待っている気配は感じられない。


鮮やかな緑のシダが、まるで生け花の作品のように案内板と一体化していた。


赤土の遍路道はよく踏み固められていて歩きやすい。写真では伝わりにくいが、かなりの急勾配である。


この道標を過ぎるあたりから黒ちゃんの膝と太もものご機嫌が悪くなってきた。初日の歩きは慣らし運転程度にするべきだった。後悔先に立たず、である。


しっとりと梅雨の湿り気をまとったヤマアジサイの、花の白と葉の緑の組み合わせ。歩き遍路さんたちの目を楽しませてくれている。


ようやく登りつめて入った横峰寺境内。お参りをする前にまず自販機前でノドを潤し、パワーを充填する。暑い時期のコーラもいいが、オロナミンもよろし。。


鐘楼脇の通路にズラリと並んだかわいいお地蔵さんたち。山寺の境内の雰囲気向上にひと役買っている。


横峰寺の本堂。屋根の一部にはガスがかかっていて、いかにも標高の高いお寺らしい。


見知らぬお遍路さんの手のひらを恐れず、ヒラリと乗ってきたヤマガラ。一瞬のシャッターチャンスを逃さずパチリ!


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