Let’s go o-henroad! 「お遍路ードプロジェクト」について

51日目 「44番大宝寺、久しぶりの抹香のにおいに癒される」(2015年2月12日)

歩数 13424歩
距離  9.6km
消費カロリー 352kcal

 昨日は雪道の鶸田峠越えで具合が悪くなり、黒ちゃんをえらく心配させた「病み上がり」の竹内記者だったが、今朝はケロっとして朝ごはんをかきこんでいる。これならば今日の歩きは大丈夫そうだ。しかし、また途中で具合が悪くなっても困る。大事をとって今日中に次の45番札所・岩屋寺に行くのはあきらめ、手前の下畑野川地区にある遍路宿「癒やしの宿 八丁坂」までの約9kmに行程を短縮することにした。
 時間に余裕ができたので、朝ごはんを9時にしてもらい、昨日の宿「笛ケ滝」を発ったのは午前10時。余裕ついでに大宝寺までの遍路道の途中にある「久万(くま)美術館」に寄り道していこうということになった。

 「お遍路に来て美術館に立ち寄るなんて、なんだか知的でカッコいいよね」とふたりで自画自賛しあいながら中に入る。久万美術館は林業で財をなした地元の実業家・井部栄治が蒐集したコレクションの寄贈を受けた久万高原町が、1989年3月にオープンさせた町立の美術館である。
 周囲に漆喰の白壁をめぐらし、特産のスギやヒノキをふんだんに使った木造平屋建の美しい和風建築の中には、高橋由一、青木繁、黒田清輝、村山槐多、岸田劉生など、日本近代洋画の代表画家たちの作品や、砥部焼の源流と言われる北川毛(きたかわげ)窯などの伊予の焼き物、近世から近代の伊予の書画などを収蔵している。

 その中でも黒ちゃんの目を釘付けにしたのは松山藩のお抱え絵師だった遠藤広実(ひろざね)が描いたとされる「久万山真景絵巻(くまやましんけいえまき)」だ。明日お参りする予定の岩屋寺を含む久万周辺の奇観・奇勝の鳥瞰図が、日本画の技法を使って生々しく描かれている。
「白山権現絶頂登臨之景」という絵図の解説には、岩屋寺の奥にある岩峰上に築かれた〈白山権現から見渡す、石鎚連峰の絶景〉とある。これは明日にでも是非この目で確かめねばなるまい(急に時代劇調のセリフになっちゃってマス)。

 44番札所・大宝寺(だいほうじ、大寳寺と書く場合もある)の境内には懐かしい匂いが漂っていた。樹齢800年の杉の大木の間を縫う薄暗い参道を登り、巨大な仁王門をくぐったとたん、久しぶりに鼻をくすぐるその匂いに出会った。なんだかとっても懐かしい。43番札所・明石寺以来となる抹香のにおいである。
 西予市宇和町の明石寺と久万高原町菅生の大宝寺の間は、幾つもの峠越えの難所をはさんで80kmの距離がある。1月のお遍路ードの7日間では一気に踏破できず、月をまたいでようやくこの境内にたどり着いたのである。大宝寺の正式名称は「菅生山大覚院大宝寺」、ご本尊には大和朝廷の時代に百済からやってきた十一面観音像を祀る。大宝年間に文武天皇が建立したことで大宝寺と名付けられたという。

 スギやヒノキの森に囲まれた鬱蒼とした境内に我々の他に人影は見えず、しんと静まり返っている。耳をすますと森の奥から特徴ある甲高いソプラノの連続音が聞こえてきた。「ん?ひょっとしてミソサザイ?」と思ってスマホで確かめると、確かにミソサザイの鳴き声だ。初夏の鳥だと思っていたが、解説を読むと「早春の2月くらいから平地や里山、渓流の近くでさえずり始める」とある。そういえば東京時代も、奥多摩の早春の渓流でこの声に出会ったことがあったっけ。
 「そうか、ミソサザイは春告げ鳥なんだ」
 さえずりは春の野鳥の繁殖期特有のものだ。久万高原のミソサザイ君は、いち早く春を察知して鳴き始めたのである。その声を聞き、急にウキウキし始めた黒ちゃんであります。

ソプラノの美声に浮かれて一句
〈大宝の 森に春呼ぶ ミソサザイ〉
黒笹慈幾


久万高原町から昨日越えてきた鶸田峠方面を望む。山がくびれたあたりが峠と思われる。今朝は昨日よりずいぶん暖かい。


町立久万美術館のエントランス。美術館としては珍しい平屋の和風建築。漆喰の白壁が美しい。


3月22日まで、久万美コレクション展Vと題して「伊丹万作《桜狩り》と重松鶴之助」をやっていた。ふたりともに松山生まれの芸術家で、伊丹万作は映画監督・伊丹十三の実父である。


美術館内部のロビー。美しい中庭と白壁を愛でながらのんびりコーヒーが飲める。静かで居心地が良く、つい長居したくなる。


今から150年前、松山藩絵師の遠藤広実が描いた「久万山真景絵巻(全3巻)の中にある「白山権現絶頂登臨之景」。この景色、この目でぜひ見てみたいものだ。


樹齢800年といわれる杉の巨木の間を縫って進む大宝寺の参道。ほのかに抹香の匂いが漂ってきた。


44番札所の大宝寺は88か寺ある四国霊場のちょうど真ん中にあたるというので「中札所」と言われている。


お参りを済ませて納経所に向かうころ、バス遍路の団体さんが到着。境内は急に賑やかになった。「そういえば今日は祝日だった」とこのとき初めて気がついた。お遍路していると、どうしてもカレンダーと疎遠になる。


大宝寺の古い石柱に刻まれた仏さまと「岩屋寺まで七十五丁」の文字。ちなみに1丁は109.2mだそう。


大宝寺の裏山にあたる峠御堂(とおのみどう)を越えて岩屋寺に向かう遍路道は、峠御堂トンネルの出口のすぐ脇で県道12号線に合流する。


<<前の日へ      次の日へ>>