Let’s go o-henroad! 「お遍路ードプロジェクト」について

42日目「冬遍路、真言はホッカイロにあらず」(2014年12月22日)

歩数 21151歩
距離 15.2km


 昨日のブログは冷たい雨からの緊急避難を兼ねた「たこ焼きランチ」のところで終わってしまったので、今日はその後の宇和島市内までの歩きと、夜遍路の報告から始めることにする。
 津島町から宇和島市街までは、愛媛県に入ってもなぜか高知の地名を引きずって宿毛街道と呼ばれる国道56号線をたどるのが最短コース。だが遍路のバイブル「へんろみち保存協力会地図」によると、多少時間はかかるが途中の松尾トンネルを迂回して山越えする遍路道を使うべし、とある。寄り道は多いが一応まじめな歩き遍路を自負している我々なので、ここはバイブルに従うことにしたのだが、正解だった。ほぼ半日降り続いた激しい雨が遍路道をかなりいじめてはいたが、なんとか通り抜けることができた。天気が良く、寒くない時期なら、より快適なルートだろう。

 お遍路道から国道56号に復帰して宇和島市街までの10kmあまりは、楽しみのない苦行そのものだった。途中、気分転換にコーヒーブレイクを提案したが、先を急ぐモードの竹内記者に一蹴されて、ひたすら前に進むしかなかった。ようやく市内のホテルに着いて旅装を解き、大浴場で垢を落とし中央町の「男鮨(おとこずし)」の暖簾をくぐる。じつは竹内記者は一週間も前からこの店に予約を入れていた。宿毛街道をひたすら急ぎながら、頭の中はこの店のご主人・河野博文さんが握る「ねかせ寿司」のことでいっぱいだったのである。
 「ねかせ」とは、魚の「旨み」成分のアミノ酸がいちばん増える時期まで、鮮魚をおろさずに丸ごと冷蔵庫や冷凍庫で寝かせてから使う技術。肉などで「熟成」という言葉がよく使われるがあれとどう違うのか聞くと「熟成はほったらかしてるだけ。ねかせは手をかけてじっくり育てる」と河野さん。なるほど「ねかせ」は最先端の料理工学なのである。
 ねかせた魚と寿司飯の組み合わせは絶妙だった。参考までにこの日食べたものの一部を紹介すると…「ねかせ2日のヒラアジ」「ねかせ4日の高知産ブリトロ」「2週間冷凍ねかせのアオリイカ」などなど。どうです、今すぐ宇和島まで駆けつけたくなりませんか?

 さて。前日の話が長くなりすぎた。夜遍路から明けて午前8時半、12月のお遍路ード最終日のスタートである。今日は15kmの歩きで2つのお寺を稼げる(失礼!)効率の良い1日である。宇和島市三間町の41番・龍光寺と42番・仏木(ぶつもく)寺は3kmほどしか離れていない。今日は宇和島駅からJR予土線を使って高知に帰るので、駅のコインロッカーに荷物を預けて空身で歩くことにした。空身遍路は土佐市の宿に荷物を置いて通った清滝寺以来、おおいに楽チンである。
 しかし、空身遍路は忘れ物の危険と隣り合わせだ。歩き始めて1kmほどのところで竹内記者が「あーっ、シマッタ!」と大声をあげた。納経帳を忘れたのだ。お遍路さんが納経帳を忘れるのはご法度、おおいに恥ずかしい。一度だけ納経帳を忘れそうになった黒ちゃんをバカにしていつも「黒笹さん、今回は納経帳大丈夫ですか?」と冷やかしている本人が「それ」をやっちゃったのだ。ふふふ、ご愁傷さまである(笑い)。

 宇和島の住宅街を抜け、ゆるい登り勾配の川ぞいの道をテクテク歩く。気温5度、風もある。荷物がない分軽いが背中がスースーして寒い。着替えを置いてきているのでこのまま頑張るしかない。冷え切った体でようやく41番龍光寺に着く。御本尊は十一面観音、真言は「おん まか、きゃろにきゃ、そわか」。こじんまりした境内には我々のほかにお遍路さんが一組いるだけ、いよいよ寒々しい。冬遍路はさみしがりやさんには向かないかも、と思う。
 次の42番仏木寺への道は、途中からみぞれ吹雪になった。おー寒い!お大師さまは最後まで黒ちゃんと竹内記者に試練を与えるのか。たぶん昨夜の夜遍路の「ねかせ寿司」でふたりともはしゃぎすぎたか。大師さまも「ねかせ」が食べたかったのだ、たぶん。 仏木寺の御本尊は大日如来。真言の「おん、あびらうんけん、ばざらだ どばん」を大きな声で3度唱えるが、真言はホッカイロではないのだ、冷え切った体はちっとも暖かくならない。

 12月のお遍路ードは1週間で効率よく3 カ所のお寺に参り、薬師如来、十一面観音菩薩、大日如来と3つの偉い仏さまにも会うことができたが、雨神、雪神、風神の3つの寒〜い神さまにわれわれの冬遍路の覚悟を試される旅でもあった。

ここで一句
  さみしさも 寒さも抱いて 冬遍路
黒笹慈幾

 1週間にわたり黒ちゃんのブログ「釣りときどきお遍路」日記をご愛読いただきありがとうございました。2015年最初のお遍路ードは1月20日過ぎからの予定です。ご期待ください。


「男鮨」の「2日ねかせヒラアジ」。「ねかせ」の素材には、きっちりと飼育管理された養殖ものを使う。これも養殖ヒラアジ。ネットリ、ズッシリの極上の江戸前寿司。


こちらは「4日ねかせ高知産ブリトロ」。4日も寝かせられるのは極上のブリだけ。これは6kgの天然もの。


夜遍路好きのお遍路さんのために作られたような名前のお酒「尾根越えて」で寿司をいただく。西予市城川のお酒だ。


料理工学を駆使した寿司のパイオニア「男鮨」の大将の河野博文さんと奥さん。河野さんは私と同い年。東京から1000kmも離れた宇和島に江戸前寿司の最先端がある愉快。


宇和島の住宅街の中に発見した金魚とメダカ専門店。かなりマニアックなお店だったのだが。先を急ぐのでゆっくり見られなかった、残念。


41番龍光寺の本堂前で。この時期はお遍路さんもまばらで、さみしい。参道の食堂のおじさんの話では開創1200年の今年、秋のハイシーズンには1日4000人が参拝したという。


42番仏木寺の仁王門。なかなかの構えである。本堂よりこっちの方が立派だった。


仏木寺の鐘楼はオシャレな藁葺き屋根。若い女性の参拝客が盛んにシャッターを押していたので黒ちゃんも。


宇和島から高知への帰りの足は偶然にも予土線のこの列車「ホビートレイン」。窪川までの2時間半をゆっくり楽しませていただきました。ちなみに黒ちゃんはこの列車を「なんちゃって新幹線」と呼んで、大いに誇りに感じている。日本中に蔓延している「新幹線欲しい病」を愉快に笑い飛ばしているから。いかにも高知人らしい諧謔である。


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