社員紹介


支局は記者の原点

        幡多支社  山崎友裕


 2017年春、高知県西部の四万十市にある幡多支社に赴任して1カ月ほどした時、一人の高齢女性と出会いました。


 担当する幡多郡黒潮町は南海トラフ地震で34メートルという全国最大の津波が想定され、さまざまな防災活動や事業に取り組んでいます。


 その日は、国内で最も高いとされる津波避難タワーが完成し、落成式の取材でした。「これで安心や」「造ってくれてありがとう」。多くの住民がホッとした様子で完成を祝っている片隅で、腰の曲がったその女性はどこかさみしそうな表情で立っていました。


 「どうしたんだろう」。気になって声を掛けると、女性は小さな声で「私は足が悪うて、いざという時もここへよう上がらん」。


 喜んでいる人がいる一方で、タワーに複雑な思いを持っている人がいる。ハッとした瞬間でした。女性は帰り際、こうも言いました。「私らは健康な人が逃げる時の迷惑になるき、捨ててもらわないかん」。この言葉は今でも忘れることができません。


 後日、この話をコラムにまとめると、何人もの住民が「記事を読んだよ」「私も同じ思いやったき、書いてくれてありがとう」と声を掛けてくれました。


編集局報道部・山ア友裕  支社や支局の記者は住民の一人として地元に居住しながら日々取材しています。地域の人と身近に接することで記事やコラムへの反応もすぐに返ってきます。地方紙記者の醍醐味です。


 高知県は人口減や高齢化が急速に進んでいます。その中でも中山間地は店舗や学校などがなくなり、集落の維持さえ難しい地域が増えています。


 しかし、いくら人口が減っても、人が暮らしている場所には必ずニュースがあります。地域を活気づけようとさまざまな活動に取り組む人がいます。地元で何が起こっているのか、住民は何を思っているのか。取材に終わりはありません。


 また、記者は決して華やかな仕事ではありません。事故で子どもを亡くした両親に話を聞いたり、寒い中、何時間も聞き込みをしたり。取材中に怒鳴られることも多く、心が折れそうな時もあります。それでも「地域のいろいろな記事を楽しみにしちゅうで」「この前の記事はよかったよ」。そんな読者の言葉が仕事を続ける原動力になっています。


 地域に居住し、読者とより距離が近い支社や支局の仕事には記者としての原点があるように思います。


 私が記事にしなければ、この話題は報道されないかもしれない―。そんな気概を持ちつつ、高知新聞の記者でないと味わえないやりがいを感じながら仕事をしています。