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2023.03.27 08:00

【放送法文書調査】公文書の信頼失墜を招く

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 公文書の信頼性と報道の自由に対する政治の圧力。二重の意味で民主主義の根幹がないがしろにされているのではないか。
 放送法の「政治的公平」の解釈を巡り、安倍政権下で官邸が意に沿わないテレビ番組に圧力をかけようとした水面下の議論を記録した行政文書について、総務省が調査結果を公表した。捏造(ねつぞう)があったとは「考えていない」との見解を示した。
 2015年に担当局長が当時総務相だった高市早苗経済安全保障担当相に対し、政治的公平の解釈を説明したという記載がある文書に関し、放送に絡む何らかの「レクがあった可能性が高い」とも指摘した。
 ただ、「放送事業者の番組全体を見て判断する」とした従来解釈から15年5月、高市氏が「補充的説明」として「一つの番組でも極端な場合は」政治的公平とは認められないと国会答弁した前に、解釈に関連する説明をしたかどうかは確認できなかったと結論付けた。
 総務省は、発言者の記憶がないといった理由で多くの内容の事実認定を避けた。松本剛明総務相は「文書の正確性が確認できなかった」とする。真相は曖昧なままである。
 高市氏は当初から自身に関わる部分を「捏造」と決めつけ、今なお「内容が正確ではなく、信頼に足る文書ではない」と全面否定している。総務省までもが正確だと言い切らないのでは公文書、ひいては政治や行政の信頼性は失墜する。
 公文書管理法第1条は、行政文書を「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」とする。公正な行政が行われたかどうか、後世の国民が検証するためのものだ。
 ところが、森友学園や桜を見る会の疑惑をはじめ、安倍政権下では公文書の改ざんや廃棄が常態化した。数年前の政策決定さえ検証できないのが国政の現状では嘆かわしい。公文書の軽視が「負の遺産」であれば清算する必要があろう。
 まずは真相を曖昧にしたままで幕引きしようとせず、第三者による調査を実施するよう求める。
 国会論議は文書の正確性に時間を取られ、首相官邸による圧力の有無に関しては深まりを欠いている。
 文書には、当時の礒崎陽輔首相補佐官が「けしからん番組は取り締まるスタンスを示す必要がある」と迫る発言も記録されていた。
 放送法は、戦時中の反省から制定された。放送局を取り締まるためではない。放送の自由を保障するための法律である。政府が個別の番組を政治的に公平かどうか判断するのは検閲に相当し、国民の知る権利が制約されると専門家は指摘する。
 また、首相官邸側と総務省側が密室で協議。「法の番人」と呼ばれる内閣法制局を通さず、高市氏の国会答弁で法解釈を事実上変更した過程も見て取れる。いずれも民主主義の在り方が問われよう。
 こうした決定過程を経た法解釈は妥当なのか。岸田文雄首相には政治、行政への信頼が問われる事態と認識した対応が求められる。

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