2023.03.06 08:40
素材を面白く伝える 映像作家 中村友也さん(36)神奈川県藤沢市―ただ今修業中
「将来は日常にある人間の闇を描く映画を撮りたい」と話す中村友也さん(東京都渋谷区)
フリーの映像作家として、多くのドキュメンタリー番組や企業のPR動画を手掛けている。
求められたテーマに沿うように脚本を書き、カメラを手にして演出もしながら撮影し、編集を経て1本の映像に仕上げる。「依頼に合わせて素材を引き立て面白く伝える」のが仕事だ。
物事の価値や強みは当事者には当たり前で、気付かないことも多い。「少し視点を変えて、特別じゃないものを特別に見せる。やり方次第で銅メダルを金メダルに見せられるんです」
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高知市出身。中学生になるとレンタルビデオ店で1本100円のDVDを借りるのにはまった。手にしたのはいわゆる商業映画ではなく、マイナーで難解なもので、「昔から妙に哲学的なことを考えていた」。
追手前高時代はバスケに熱中する一方、文化祭では映画「バトル・ロワイアル」に倣った作品を撮った。カメラを図書館で借り、役者はクラスメート。「面白いやん」と褒められた。
卒業後は米・ロサンゼルスにある大学の芸術学科に進み、映像製作などを学んだ。現地の映画製作会社でミュージックビデオの撮影などに携わった後、2011年に帰国。米国で知り合った映画監督の岩井俊二さんに師事し、ドラマやCMの演出、編集作業の経験を積んだ。
14年に独立してからはテレビや映画、CMなど、分野にこだわらず「好奇心旺盛にいろいろやってます」。最近では、NHKの海外向け番組で、戦火のウクライナで炊き出しをするスペイン人シェフを追った15分間のドキュメンタリー作品を手掛けたほか、総合商社や物流会社の企業PRも請け負っている。
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好きな言葉
下見では「くっきりした緑と青の濃さ」が印象に残り、「なるべく横着な演出をせずに、人の営みを伝えよう」と決めて脚本を書いた。
3分間の映像は、都会で失恋した若い女性が「ブルーな気分に浸れる」と評判の仁淀川を訪れる場面から始まる。沈下橋やにこ淵で水の清らかさを体感し、アユの塩焼きや地鶏の卵を使ったソフトクリームを堪能する。ハナモモの咲き誇る山里や茶畑を歩くうちに、嫌なことも忘れていく。屋形船で仁淀川を下るころには「どこがブルーになれる場所よ」と何とも言えない表情でつぶやく。
食や自然の豊かさ、四季折々の魅力をちょっとひねって表現した「究極のブルー編」は、ユーチューブで11万回以上再生され、地域の魅力を発信する動画の全国コンテストで入賞した。
誰もがスマートフォンで映像を撮り、ユーチューブやTikTok(ティックトック)などを通じて世界に発信できるようになった。映像作家は「資格も要らないし、誰にでも始められる仕事」だからこそ、「テレビでもあえてユーチューブっぽい映像」にしたりと、常に新しい表現方法を模索する。
こだわるのは自己満足ではなく、依頼主を満足させるプロの仕事。「まだまだ修業中です」と静かに語った。
写真と文・浜崎達朗