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2023.03.04 08:00

【諫早湾水門判決】地域の和へ責任果たせ

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 巨大な公共事業を巡って長年続いていた法廷闘争が区切りを迎えた。開門か、非開門かで司法判断がねじれていた国営諫早湾干拓事業(長崎県)の堤防排水門は、「非開門」で実質的に決着した。
 開門を命じた確定判決の無効化を国が求めた請求異議訴訟で、最高裁が、確定判決の維持を訴える漁業者側の上告を棄却した。
 法的に曖昧な状況は確かに解消された。しかし、地域の対立や混乱は深く刻まれたままだ。それを招いたのは、一貫性や誠実さを欠いた国の対応にほかならない。地域の立て直しとしこりの解消へ、責任ある対応を取り続けなければならない。
 干拓事業は農地造成などを目的に1986年に開始、97年に湾の奥を約7キロの堤防で閉じた。事業費約2500億円で約670ヘクタールを造成し、営農は2008年から始まった。
 閉門後、不漁に見舞われたとして漁業者側は開門を求め、塩害などを懸念する入植者らは非開門を要望。訴訟合戦の様相を呈してきた。
 今回、国が無効化を求めた判決は、漁業者の主張を認めた10年の福岡高裁判決だ。湾の調査のため、5年間開門するよう国に命じ、当時の民主党政権の首相は上告せず、判決が確定した。
 だが、営農者側も法的に対抗し、13年に長崎地裁が開門禁止を命じる仮処分を決定。異なる司法判断が並んだ形になり翌年、国が確定判決の無効化を求める訴訟を起こした。
 今回「非開門」と判断された根拠には、判決確定後の「事情の変化」が検討され、既に本格化した営農への影響などを考慮したとされる。現実的な判断なのは確かだろう。
 だが、国が漁業者の切実な不安に寄り添ってきたとはいえまい。
 民主党と自民党政権の基本スタンスの違いもあり、国は、自ら開門命令を確定させながら、方針を非開門に一転した経緯がある。
 無効化の訴えも、当初は「漁業権の消滅」といった形式的な理由を挙げ、漁場問題などに正面から向き合わなかった。この間、和解を希望しながら「開門の余地を残した協議はできない」と一方的な姿勢でもあった。漁業者の怒りや失望を招くのは当然だ。
 そもそも、この干拓事業はコメの増産目的で始まっている。食料事情が変化しているにもかかわらず、旧態依然とした発想で始動し、漁業者が納得できるような環境影響調査も行われないまま進んだ。
 巨額の公共事業そのものが目的化していた面があり、それが漁業と農業の対立を深めたのではないか。行政の責任は極めて重い。今後、対話の場を設けるというが、漁場の環境改善や利害調整へ、行政は主体的に臨む必要がある。
 この訴訟では、一度確定した判決の効力を取り消せるかどうかも論点となった。今回の決定に対して「司法の自殺行為だ」との批判も出る。民事裁判制度の根幹に関わるものだが、具体的な説明はない。司法は説明責任を果たすべきだ。

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