2023.02.26 08:00
【学術会議見直し】第三者委設置は再考せよ
政府は学術会議の組織改革へ、会員選考に関与する第三者組織「選考諮問委員会(仮称)」の新設などを柱とした関連法案の概要を明らかにした。今国会に提出するという。
現行は、会員らの選んだ候補者を首相が任命する仕組みで、首相の任命権は「形式的」とされてきた。見直し案では、会員らが新会員候補を選考する際、あらかじめ諮問委の意見を聞き、意見を「尊重しなければならない」としている。
だが、委員はどう決めるのか、中立性をどう保つのかなどは曖昧だ。政府が人事に口を出せるようになる。意に沿わない人物を排するのではないかとの懸念が拭えない。
この第三者委の設置は昨年12月に方針が示され、学術会議側は「独立性と学問の自由を著しく侵害する」と反発してきた。しかし政府は意に介さず、意見交換も議論もしないまま法案を提出しようとしている。
岸田文雄首相は「建設的な対話」を掲げていたはずだ。政府のあるべき姿だと言えるだろうか。
そもそも、見直しのきっかけになったのは、菅義偉前首相による新会員候補6人の任命拒否だった。いずれも安全保障関連法など政府対応を批判した研究者だったが、菅氏は拒否理由を正面から答えず、岸田首相も「終わった問題」との認識を示している。
一方で政府・与党は、学術会議への年約10億円の国費支出をちらつかせ、組織見直しを打ち出した。「論点のすり替え」であり、さらにその上で、政府のコントロールがより利く形に誘導しようとしている。
学術会議は、戦争に協力した反省から軍事研究と距離を置いてきた。一方で防衛分野に占める科学技術の比重は増している。そうした中で、学術界側の慎重な姿勢に政府側は不満があるのかもしれない。
しかし、政府方針と相いれない研究や言論を封じ込めることがどんな問題を生むかは、そのような体制の諸外国の実情や歴史が示す通りだ。
民主的で寛容な空気で生まれる、中長期的で多様な研究が、技術発展の推進力になる。そのことが分からないほど、政府中枢の思考は硬直化してしまったのだろうか。
政府はまず任命拒否問題でしっかりとした説明責任を果たすべきだ。その上で学術会議との信頼関係を取り戻す必要がある。
見直し案に対し、学術会議の危機感は強い。梶田隆章会長が「日本の学術の歴史の転換点となり得る大きな問題だ」と言う。その通りだろう。まかり通れば憲法が定める学問の自由を制約することになる。
意に沿わない意見の統制は、学術界にとどまらず、メディアなどに向けても強まる可能性があろう。政府は法案提出を再考するべきだ。