2023.01.30 08:00
【地域医療再編】押しつけでは進まない
政府は、高齢者数がピークとなる2040年ごろを見据え、地域医療の再編に向けた議論を始める。厚生労働省が23年度から2年かけて議論し、それに基づいて各都道府県が地域医療構想をまとめるという。
少子高齢化に対応する観点から、地域医療の再編議論が本格化するのはこれで2度目となる。
厚労省は17年、団塊の世代が全員75歳以上になる25年を目標とした地域医療構想をまとめた。高齢者が増えて膨らむ医療費の抑制が主眼だった。構想では、病院の病床数を13年時点の134万床から119万床まで削り、リハビリ向け病床や在宅医療を拡充する方針を示した。
今回照準に置く40年は、団塊ジュニア世代が65歳以上となり、人口に占める高齢者の割合が現在の29%から35%になるとされる。高齢化がさらに進む中、改めて再編のねじを巻くということだろう。
限られた医療資源を効率的に配置する視点は、もちろん重要だ。高齢化が進めば高血圧や糖尿病など慢性疾患が増す。求められる病床は、手術や救急などの「急性期」向けから慢性期やリハビリ向けの比重が高まろう。医療体制も実態に応じて変わっていくべきだ。
だが、命と健康に関わる問題でもある。効率化の狙いばかりが先立てば住民の不安をあおることになる。
忘れてはいけないのは、厚労省が19年、診療実績が乏しく再編・統合議論が必要と判断した、県内5病院を含む424の病院名を公表し、地元の強い反発が出たことだ。議論を活発にするための異例の公表だったが、逆に停滞した。
地域住民の医療に対する思いは、机上のデータのみでは整理しきれず、国の押しつけのような形で再編は進むまい。議論は地域主導で行われるべきだ。住民への丁寧な説明も求められる。
民間病床の再編も方針通りに進むわけではない。現在の構想に基づけば、病床の減少ペースは想定より1万床少ない水準にとどまる。医療機関の経営に直結し、利害調整が容易でないことが一因という。インセンティブ(動機付け)を与えるなどの仕掛けも考えるべきではないか。
再編に当たって、過剰気味の病床が適正化されるケースはよいだろう。だが、そうでない場合は慎重さが求められる。高齢者が増える中で慢性期の病床を減らすのであれば、在宅医療や介護の対応を拡充しなければならない。医療と福祉、一体的に地域ケアを考える必要がある。
新型コロナウイルス流行のような事態をどこまで想定するかも焦点だ。過度な効率化は医療逼迫(ひっぱく)を生じさせかねない。災害時、感染症など非常時対応をしっかりと位置付けておくべきだ。