2023.01.29 08:00
【米独の戦車供与】外交努力も欠かせない
北大西洋条約機構(NATO)加盟国も相次いで、ドイツ製戦車の供与を表明。合わせて百数十両を超えそうな流れで、今後、ウクライナ側の戦闘力が飛躍的に高まる可能性も出てきた。
ウクライナでは東部などで激しい戦闘になっているほか、国内各地にロシアのミサイルが着弾。民間施設も破壊され、犠牲になる住民が増え続けている。
蛮行を一刻も早く止め、ロシアを撤退させるには、ウクライナへの軍事支援の強化はやむを得ない面があろう。ただ、それは戦闘がかえって激化する危険性もはらんでいる。西側各国には軍事的な圧力だけでなく、これまで以上に外交努力による解決も求められる。
戦車は地上戦において攻撃力の高い兵器として知られる。それを供与すると戦火がNATOにも飛び火しかねず、米欧はこれまで二の足を踏んでいた。
特に攻撃力、防御力に優れ、欧州の主力戦車となっている「レオパルト2」を製造・輸出するドイツは慎重だった。大戦中に各国に侵攻したナチスドイツの歴史も引きずっており、国内には反戦世論が強い。
しかし、ウクライナの戦争は長期化。領土奪還に向けウクライナ側も戦車を強く求めるようになり、欧州内ではドイツの姿勢に不満が強まっていた。
ドイツは今回、同じく主力戦車「エーブラムス」の供与をためらってきた米国と歩調を合わせるかたちで方針を転換。レオパルト2を配備する欧州各国も足並みをそろえ、ロシアへの対抗姿勢を強めた。
逡巡(しゅんじゅん)を断ち切っての新たな軍事支援である。米欧によるロシア対応は新たな段階に入ったと言っていいだろう。
ロシアはそんな米欧を激しく非難。ロシアの軍事専門家は早速、戦車が配備できないように、「ウクライナ国内の鉄道やトンネルをミサイルで破壊する必要がある」と指摘している。
戦車を脅威に感じている証しではあるだろうが、簡単に引き下がる国ではあるまい。ロシアはいま、ウクライナ全土にミサイル攻撃を続けており、春には大規模攻撃を仕掛けるとの見方も出ている。戦車の供与に対抗し、攻撃を強めてくる危険性が十分ある。
戦況が不利になれば、プーチン大統領がさらに暴走する恐れさえあり、予断は禁物だ。核兵器の保有国である点も懸念される。
西側諸国は戦車供与は「もろ刃の剣」であると認識し、ロシアとより真剣に対話する姿勢が欠かせない。外交力が問われている。
ロシアによる侵攻は来月で丸1年になる。これ以上、ウクライナの人々の命が失われてはならない。兵器ではなく英知を結集し、平和を取り戻していきたい。