2023.01.18 08:46
高知市・五台山ミニ八十八カ所再興へ 竹林寺と住民、地図や紹介サイト準備中
ミニ八十八カ所を巡礼し、道を確認するメンバーら(高知市五台山)
「札が新しゅうなっちゅう。誰かがきれいにしてくれたがやね」。山中の道端にある小さな石仏。近所に住む〝先達(せんだつ)〟の佐藤和男さん(84)がその脇の木にかけられた白い札を見つけ、声を上げた。札には四国霊場札所の寺名や本尊、真言が丁寧な字で書かれており、今も人々の間に信仰が息づいていることが感じられた。
ミニ遍路は、回ると四国八十八カ所と同じ功徳が得られるという。同じ風習は各地に伝わり、五台山では200年ほど前にはあったとされる。竹林寺の参道脇や県立牧野植物園の園内、巨石の陰など八十八カ所に仏がまつられており、急な坂道や岩の隙間、畑などを通り抜ける。距離は短いがさまざまな体験ができる〝遍路道〟だ。
巡礼は道順も行程の距離も先達によって異なる。本紙の過去記事によると、距離は8~10キロ程度の記述が多い。地元住民には親しまれているが、素人は迷いそうな場所もちらほら。道しるべは道沿いの木やポールにくくり付けられた赤いテープ。回り慣れていないとうっかり見落とすことも。
ルートを確認して歩いた竹林寺の僧侶らは個人所有のミカン畑を通り抜ける際、「初めての人はここを通るとは思わんやろうねえ…」と漏らした。ただ、収穫中の地元男性は慣れた様子。「お参りお疲れさまです」と巡礼するメンバーにつやつやのミカンを手渡して〝お接待〟していた。
佐藤さんは70歳になったころ、親戚から先達を継いだ。以来、毎月のように巡礼希望者を案内。道の草刈りや仏の前掛けを新しくするなど整備を続けてきた。ただ巡礼は新型コロナ禍で休止状態が続いており、「道を覚えてくれたお客さんもおったけど、コロナ禍で散ってしもうて。引き継いでくれる人を探しゆう」。そこで動き出したのが2023年に開創1300年となる、竹林寺だ。
今春には牧野富太郎博士をモデルにしたNHK朝ドラの放送が始まり、県立牧野植物園と合わせて多くの人が訪れることが見込まれる。これを機に「頂上だけでなく、山全体の文化を掘り起こし盛り上げられないか」と検討する中で、ミニ八十八カ所に着目した。
現在、あらためて地区住民の聞き取りや文献調査をしており、昨年11月中旬には、竹林寺副住職の海老塚義乗さん(34)らが佐藤さんとルートを巡回。「この道は迷いそう」「疲れた人が途中で下りられる道があったらいいかも」と、アイデアを出し合った。
2月末までに紹介する地図やウェブサイトを構える予定で、海老塚さんは「訪れる人が減り、荒れてしまった場所もある。まずはいろんな人に来てもらえる環境をつくり、ゆくゆくはツアーなどにつなげたい」。今後、整備や巡礼の課題などについて地域住民と協議しながら解決策を探していくという。
先達の佐藤さんは「(竹林寺の協力で)皆さんに愛され、回ってもらえるミニ八十八カ所にしたい」と話している。(森田千尋)