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高知新聞PLUSの活用法

2022.12.25 08:00

【原発60年超運転】規制委の独立性はどこへ

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 原子力行政の変質はもはや明らかだろう。原子力規制委員会が、原発の60年を超える長期運転を認める安全規制の見直し案を了承した。現行の規制で「原則40年、最長60年」とされる運転期間は制度上、上限がなくなる。
 原発を最大限活用する政府方針を追認したと言え、法改正に向けて着々と手続きを進める政府と、完全に歩調を合わせた格好だ。国民の目に規制組織の独立性がゆらいだと映れば、原発そのものへの不信につながりかねない。
 新たな制度案は、運転開始から30年を迎える原発について、10年以内ごとに設備の劣化状況を繰り返し確認することが柱となる。
 電力会社には長期の管理計画を策定し、規制委の認可を得るよう義務付ける。規制委は意見公募や電力会社との意見交換を経て、原子炉等規制法の改正案を来年の通常国会に提出する見通しだ。
 現行の規制で運転期間を40年、60年とする根拠を問う声もあるが、どんな機器も経年劣化は免れまい。安全性への信頼度も低下しよう。明確な基準を設けること自体が、原発依存度の低減という民意を象徴していたといってよい。
 これまで山中伸介委員長も「経年劣化が進めば進むほど、規制基準に適合するかの立証は困難になる」と説明していた。
 しかし規制委は今回、運転が60年を超えた原発の安全性をどう確認するか具体的な方法を示すことなく、詳細の検討を先送りにした。こうした対応では、国民が抱える安全性への不安を置き去りにしたと非難されても仕方があるまい。
 技術的な問題に加え、見直し案の了承に至る経緯は看過できない問題をはらんでいる。
 東京電力の福島第1原発事故まで規制行政は、電力業界を所管する経済産業省の枠組みの中に位置付けられていた。推進側と規制側が同居する構造で生じたゆがみは、国会の事故調査委員会に事故の背景として指摘され、「(電力業界の)虜(とりこ)」と断罪された。
 その反省から設置された規制委にとって、独立性と中立性の担保は組織の出発点であり、根幹にほかならない。それにもかかわらず、推進側の経産省との協議は山中委員長の就任から実質3カ月ほどでスピード決着した。事故の最大の教訓だった規制と推進の分離は形骸化し、いつの間にか原発回帰の「両輪」に変質してしまったのではないか。
 政府は、脱炭素社会の実現に向けた基本方針を決定し、原発の60年を超える運転期間延長や、次世代型原発への建て替えなど原発推進策を盛り込んだ。この姿勢にも疑問を禁じ得ない。
 事故後掲げてきた原発依存度の低減から方針を転換するのであれば、国民的な議論で合意を得るべきだ。その手順を踏むことなく、法改正を先行させようとする手法は乱暴で拙速に過ぎる。事故の教訓をないがしろにすることは許されない。

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