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2022.12.19 05:00

【知床観光船沈没】粗雑な運航が人災招いた

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 4月に北海道・知床半島沖で観光船が沈没し、乗員乗客20人が死亡、6人が行方不明になった事故について、運輸安全委員会が原因をほぼ特定する経過報告を公表した。座礁や衝突など予期できないトラブルとは異なり、防ぎ得る人災の側面が強いといえる内容だ。
 運航会社「知床遊覧船」は安全管理上の問題を数々指摘されてきたが、その責任は極めて重い。最終報告に向けてさらに調査を進め、二度と同様の悲劇を起こさないよう、運航の安全対策に反映させなければならない。
 経過報告は運航会社の弛緩(しかん)した体質を改めて裏付けたといえる。観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」は甲板にあるハッチのふたが航行中に外れ、そこから海水が浸入して沈没したと推定されるという。多くの生命を乗せる観光船として信じられないずさんさだ。
 事故2日前の救命訓練の際、カズワンはハッチのふたがしっかり固定できない状態だったとの証言があった。引き揚げられた船体にも、ふたの固定具の掛かり方が不十分だったことをうかがわせる摩耗が見つかっている。
 甲板下の空間には船倉や機関室を区切る3枚の隔壁があったが、いずれも開口部があり、浸水の拡大を防げなかった。隔壁が機能していれば、浸水は船首付近にとどまり、沈没はしなかったとみられる。
 カズワンは水を通さない隔壁の設置は義務付けられていなかったが、もともとあった隔壁の開口部をなぜ放置していたのか。ハッチの状況を含め、粗雑な管理の代償はあまりに大きい。
 直接的な原因と考えられる船体構造に加え、ソフト面も問題だらけだったといってよい。乗客の携帯電話の位置情報や気象情報から当時の波の高さを推測した結果、カズワンは沈没場所付近で2メートル以上の波を受けていたようだ。
 同社の運航ルールは「波高1メートル以上、風速8メートル以上」に達する恐れがある場合は出航を中止すると定めていた。出航判断の誤りは明らかだ。ルールは守られてこそ効果がある。運航会社に求められる安全確保や法令順守の意識が緩みきっていたのは間違いない。
 同社は沈没事故以外にも2020年7月から21年6月の間に3回もの事故を起こしている。北海道運輸局から特別監査を受け、安全管理規程の順守を指導されていた。
 結果的に監査は機能せず、ずさんな体質を見過ごしたことが事故の一因となった点は是正が必要だ。報告書は監査能力の向上を課題に挙げたが、厳しい自己検証と十分な体制整備が求められよう。
 国土交通省は沈没事故を受け、全国790の旅客船事業者を対象にした緊急安全点検を行ったが、そのうち162事業者で不備が見つかっている。重大な違反はなかったものの、油断は思わぬ事故につながりかねない。繰り返し対策を徹底して安全意識を高める必要がある。

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