2022.12.09 08:00
【救済法成立へ】「一歩前進」にとどめるな
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題を巡る被害者救済法案は一部を修正し衆院を通過した。政府、与党はあす成立させる意向だ。
法案の修正は、自由意思を抑圧しないなどの配慮義務に関して「十分に配慮」とより強い表現とし、怠った場合は勧告や公表を行うとした。また、法律の見直し規定は、施行後3年から2年に短縮した。
野党が求めたマインドコントロール(洗脳)下の寄付取り消しは、政府側は洗脳の定義が難しいとして法案には盛り込まれなかった。罰則の対象外である配慮義務にとどまったことに批判が向けられ、与野党の攻防の末、修正で歩み寄った。
法案は寄付勧誘の際に「霊感」で不安をあおることなどを禁じ、違反には罰則規定を設けた。衆院特別委は配慮義務規定の具体例の明示や周知を求める付帯決議を採択した。
今国会で成立見通しとなったことで、被害者救済や被害の防止へ向けて一歩前進との評価がある。一方で、被害実態からは実効性に欠けるとする批判も根強い。家族の困窮や人権侵害の救済につながるように、状況を丁寧に見定めながら制度の充実を図ることが必要となる。
岸田文雄首相は、不安に乗じた勧誘は禁止行為として取り消し権の対象となると述べている。条文解釈を明文化して被害者救済へつなげる考えも示した。必要な対応を重ね、十分に効力を発揮できるように取り組むことが求められる。
宗教法人の中には、信教の自由を侵す危険性があるとして法案に反対する意見も出ている。信教の自由は憲法で保障される。厳格な運用が欠かせないのは言うまでもない。
被害者救済の議論は立憲民主党と日本維新の会が主導した。両党の足並みは完全にそろっていたとは言い難い。それでも共闘は一定の力を発揮して政府、与党の歩み寄りを引き出した。国会論議に緊張感をもたらした側面もある。
立民内には修正につなげたことを評価する声がある一方、修正に意味はあるのかと軟化に厳しい見方が出ているようだ。どう意思統一し、今後の対応につなげていくのかが問われる。
支持率が低迷する首相にとって、救済法案の成立を図ることで支持を挽回したい思惑もあるだろう。被害者救済の実効性が高まることが評価の基本となる。不備を迅速に補うことが不可欠で、対応が後手に回るようでは迫力を欠いてしまう。
安倍晋三元首相の銃撃事件から、旧統一教会に絡む問題が再び注目されるようになった。自民党と教団との多くの接点も浮かび上がった。被害者救済を急ぐ観点から法案が優先的に議論されることに違和感はない。しかし、それで実態解明を回避していいわけではない。首相は指導力を発揮することだ。