2022.12.06 08:00
【敵基地攻撃能力】「専守防衛」逸脱せぬか
自民、公明両党が、自衛目的で他国領域のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有について合意した。
歴代政権はこれまで、反撃能力は自衛の範囲とする一方、平和主義を掲げる憲法の趣旨に反するとしてきた。保有は、安保政策の大きな転換となる。与党のみで勝手に進めることは許されない。国会での徹底した議論と国民の理解が不可欠だ。
自民などは必要な理由として、覇権主義を強める中国、ミサイル発射を続ける北朝鮮、ロシアのウクライナ侵攻など緊迫化する国際情勢を挙げる。日本も攻撃される可能性が高まっているとし、反撃能力を持てば相手国が攻撃を思いとどまる抑止力が増すとする。各種世論調査でも保有に賛成の方が多いようだ。
だが、額面通り受け取ってよいものか。例えば、ミサイルの発射方法が多様化した現在、その兆候などを把握するのは難しいとされる。独りよがりの判断で攻撃すれば、国際法違反の先制攻撃になりかねない。
両党合意では、攻撃発動の基準は示さず、対象も「必要最小限度」としただけで明示を避けた。内容を曖昧にしたのは、手の内を明かさないためだと主張している。
しかし、基準を明確にしておくことこそが乱用の歯止めであり、専守防衛かどうかを判断する最も重要なポイントであるはずだ。それを明確化しないのは責任の放棄だ。時の政権の裁量に任すのは危うすぎよう。
「平和の党」「与党内のブレーキ役」を掲げる公明は、議論開始時からこの部分にこだわってきたのではないか。役割を果たしていないと言われても仕方あるまい。
抑止力として本当に機能するのかとの問題もあろう。既に日米安保条約に基づく抑止力がある。独自に反撃能力を持ったところで効果が期待できるのか、との指摘がある。
反撃能力を持つリスクもしっかり踏まえるべきだ。日本の攻撃力の増強は周辺国の軍拡につながり、不要な緊張感を生みだしかねない。政府は、米国製巡航ミサイル「トマホーク」を最大500発程度購入する検討を始めた。これが果たして「必要最小限度」だろうか。
両党合意では、反撃能力は集団的自衛権として行使することも排除されていない。日本が攻撃されていない段階でミサイル攻撃する事態もないとは言えない。政府はこうしたリスクも丁寧に説明するべきだ。
岸田政権は、防衛関連予算を国内総生産(GDP)比2%にする考えも示すなど軍備拡充の姿勢が顕著だ。だが、周辺国と有事が起こらないための外交、環境づくりが基本であることを忘れてはいけない。
国葬や原発回帰など、重要な方針を勝手に決める姿勢も目に余る。合意形成の手続きを軽視すれば、支持率の低迷に歯止めはかかるまい。