2022.12.05 08:35
心動かす水族館に 足摺海洋館「SATOUMI」広報 新谷諭崇さん(39)土佐清水市―ただ今修業中
「清水の海は多様性に富んでいる。もっと知りたい」と探究心を燃やす新谷諭崇さん(土佐清水市の県立足摺海洋館)
「カエルアンコウが一番好き。あんまり動かないし、だるそうに移動するところが、人間くさいなって」
2020年10月に県立足摺海洋館「SATOUMI」(土佐清水市三崎)に採用され、広報を務める。イベント企画やチラシ製作の打ち合わせ、旅行業者との商談、交流サイト(SNS)での発信など、業務内容はさまざま。「『これが広報』っていうのがない。1日があっという間に過ぎますよ」。そう語る表情は充実感にあふれている。
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同市浜町出身。水産会社を営む家庭に生まれ、食卓には連日魚が並んだ。「でも昔は、魚はあまり好きじゃなくて…。焼き肉の方がうれしかった」。大阪の専門学校を出て、美容師や携帯電話の販売営業などで接客スキルを磨いてきた。
職場環境の変化で転職を考えていた時、同館の求人が目に留まった。家業や海遊館(大阪市)で働く兄の影響もあったのかもしれない。海に関わる仕事に縁を感じ、前職を退職して2日後には働き始めた。
持ち前の明るさや営業で培ったスキルが買われたのか、広報を任される。だが当初は「全くの未経験。業界の人とも話したこともない。未知の領域」と戸惑い、失敗を重ねた。イベントのチラシで文言を間違えた時は「生きた心地がしなかった」。子ども向けのクリスマスイベントでは平日の昼間に設定し、集客に苦戦した。「何のため、誰のためのイベントか。全然考えられていなかった」と振り返る。
魚の専門知識も皆無に等しかったが、館長によるガイドツアーで説明に耳を傾け、飼育員に積極的に話を聞いて学んだ。結果、今では旅行事業者向けのガイドも任されるほどに。「この魚は何年生きる?」「卵は何日でふ化する?」。そんな客の質問にも、少しずつ答えられるようになってきた。
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最近大切にしているのは、職員間のコミュニケーション。今夏企画した「サメ展」には、飼育員のアイデアを取り入れた。「日頃、生き物をよく見ている飼育員の視点を反映させるのも広報の役割。僕が拡声器となって、館の魅力を発信したい」。休みの日に飼育員と釣りに出かけ、意見交換することも多い。
展示する生き物を見てお客さんが喜んでいると、わが子が褒められているようでうれしくなる。老衰や環境に適応できずに死んでしまう魚たちがいるとやりきれない気持ちになるが、新たな命の誕生に触れられる喜びもある。「言葉を持たない相手との仕事は、日々発見がある。それが醍醐味(だいごみ)ですね」
好きな言葉
館の前に広がる竜串湾は、約100種を数える造礁サンゴの群生地であり、多くの魚やウミウシなどが生息する生き物の宝庫。「この仕事を通して、地元の良さに気づいた。地域の魅力を丁寧に発信し、お客さんの心を動かす水族館を目指したい」。誇らしげな表情に、郷土愛をにじませた。
写真・山下正晃
文・小笠原舞香